「栄口もごみ捨てか」

当たり前だが今日のごみの量は少なく、中身だけ回収される他のごみ袋に移していた時、後ろから声を掛けられた。振り向けばそこには、ごみ袋を持った花井と、それを奪おうとしているのか手をごみ袋に伸ばしている女子が居た。花井は奪われないように女子から袋を遠ざける。

「今週教室掃除なんだよねー」
「俺も」
「……もう女子と仲良くなったの?」
「ちっげーよ!こいつとは班が同じで、今日初めて喋ったんだからな!」

意外に初なのかはたまた怒っているからなのか、顔を真っ赤にして詰め寄って来る花井に苦笑していると、花井がいきなり目の前で「ああ!!」大きな声を上げた。耳痛い!

俺から離れた花井の手にごみ袋はない。あれ、と周りを見渡せば紺のカーディガンを着た先程の小柄な女子が袋を持って離れた場所で立っていた。あ、それ花井が持ってたやつだ。

「お前、頑固かよ……」
「せ、せめて……捨てるのくらい、は、私が……!」

女子特有の声変わりが余りない高い声。しかし普通の女子とは違い、彼女のは途切れ途切れだしか細すぎてよく聞き取れない。その見た目からして大人しい子なのだと思う。

頑固なのかはさておき、彼女は奪い取ったそれを素早くごみ溜めへと置いて俺達の下に戻って来た。無駄のない動きに驚いていると、花井が溜め息を落とした。ぴくりと彼女の肩が震えた。

「お前、とろいかと思えば結構機敏だな。小動物っぽい」
「!」
「目」
「っうあ……!」

彼女は花井に指摘されるなりすぐに目を腕で覆い隠した。隠す前の彼女の目は、物凄く大きな真ん丸だった。花井の言う通り反応とか一々それっぽい気がしないでもない。ていうか花井、流石にとろそうは失礼だろう。(俺もちょっと思ったけども)

未だに顔を隠している彼女に花井が若干吹き出しそうになりながらもそれを飲み込んだ。

「こいつさ、三橋みたいじゃね?」
「あ、たしかに」

言われてみれば三橋みたいだ。あいつもなんか小動物っぽい所ある気がする。まあ、三橋は男である分ちょっとなよなよしていてどうかとは思うけど。……女子だったらやっぱり、なんか、可愛げがある。

「っふ」
「え?」
「わ、わた、先っ……戻ります〜っ!」
「ええ!?」

先程の聞き取りにくかった声の彼女にしては大きいと感じる普通の声量に驚く間もなく、逃げるように走り去っていってしまった。

「な、なんだ……」

既に見えない後ろ姿の残像にぼんやりとしていると、花井が笑った。

「え、笑える要素なのあれ」
「いや、苗字って人前だと緊張するらしくてさ。ありゃ逃げたくなるくらい緊張してたんだろ」
「ええ……」

確かに俺初対面だし結構まじまじと見ちゃったけど、あの反応はあまりない。逃げるなんてテレビで見る有り得ないコントくらいだと思ったけど……本当にいるんだ、逃げる人。

「じゃ、また部活でな」
「お、おー……」

まだ笑いが収まらないのか大きな身体を震えさせたまま背中を向けた花井に、見えないけれど反射的に片手を上げた。

(……苗字、さん)

三橋といい彼女といい、挙動不審な性格が流行っているのだろうか。

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