今週から放課後に掃除が始まる。うちのクラスの掃除当番は今の席の縦六人で割り振られた。一週間置きに回るようで、初回は俺の所が掃除だった。しかも教室。入学早々教室掃除なんてついてない。昨日始まったばかりの部活動で遅れを取るのも嫌だから、早く終わらせたい。

……早く終わらせたいのだが、なんと最悪な事に俺の班は俺を含めて五人男。絶対終わらない。

「お前部活入る?」
「俺はサッカー」
「帰宅部」
「花井はなんか入ったか?」
「あ、俺は野球」
「野球部って今年からの新設なんだろ、スゲー」
「確かに花井は野球って感じするわ!頭とか」
「うっせー!」

辛うじて箒片手に持ってはいるがなかなか動かない奴等と話ながらも俺は床を掃いていく。そんな俺に釣られて掃除をし始める奴も居て良かったとか思った。

そんな時、班が同じ一人の男が俺に近付いてきた。近付いてくるが視線は俺に向けられていなく、何を見ているのかと、同じ方を見てみる。視線の先にはこの班唯一の女子、苗字が黒板を綺麗にしている姿だった。

「ちょっと可愛くね?」
「…………」

やっぱりそういう話かよ。今絶対くると思った。脱力感からきた溜め息を落とせば、隣で「なんだよその反応」と口を尖らせていた。

「そう思うなら真面目に掃除しろよ、アピールで」
「それもそうだな!」
「おお(馬鹿だ)」

サボってる奴もいるがこれなら掃除も終わりそうだ。慌てて掃いたり机を運んだり真面目に掃除している中に混ざって俺も掃除を再開する。

床を掃きながら何と無く苗字を見る。確か自己紹介した後水谷と喋ってたよな。大人しそうだし、扱いにくそうだし、俺だったら苛々しそうだ。妹はいるが、同い年であのタイプはなあ……。

ぼんやりと手を動かしていればいつの間にか埃が集まっていて、掃除用具のロッカーにある塵取りを取りに行こうとしたが、気が付くと塵取りを持った苗字が居た。

「っわ、びっくりした……!」
「ご、ごめ……えっと、ち、塵取り……」
「!」

苗字の目は俺を見る事なくキョロキョロとしていたが、そそくさと埃の集まった近くにしゃがんだ。膝はきちんと揃えられているしスカートもしっかりと押さえている。妹と違うな……!

「悪いな」
「こ、れくらい、当たり前、だよ」

視線を交えようとしているのかしゃがんだ体勢でちらちらと俺を見上げている。しかし俺と目が合えば素早く逸らされる。

(三橋みてぇ……)

それでも塵取りの中に埃を収めて掃き掃除を終了させて立ち上がった時、ちゃんと目が合った。……あれ、なんかこいつ、顔真っ青だ。

「……せっ背、高……いね」
「……ああ、まあ」

苗字は平均より小さいだろう。見下ろせば脳天見えるって凄い、なんて考えていると苗字が小さな声で俺を呼んだ。

「は、花井君」
「お、おう」

俺の名前知ってるんだ。いや俺も苗字の名前知ってるんだから普通か。呼んだなり苗字は教室の扉の方を見ろと俺に目配せをしていて、誰か来たのかと気が付いた。

「教室掃除なんてついてねーな花井」
「泉」
「ま、頑張れよ」

同じ野球部に入った9組の泉がスポーツバッグを背負ってうちの教室を覗いていたと思えばすぐに居なくなった。俺だってついてないって思ったっつの、なんて溢してからはっとする。苗字が俺を見詰めて口をもごもごと動かしていた。

「あと、ごみ捨てだけ、だから……花井君、部活行っても、いいよ?」

言った瞬間小走りでごみ袋を持ってへらへら笑っていて、思わず笑ってしまった。意外と早く動けるんだなこいつ。とろそうに見えたから余計に可笑しかった。

笑っている俺に不安を抱いたのか次はおろおろと目を泳がせるものだから、俺はすぐに笑いを飲み込んで箒をロッカーにしまい、苗字の持つごみ袋を奪い取った。

「俺はやらなきゃいけない事は真面目にやるからな!」

驚いたのか苗字は目を丸くしていたが、口元に手をやり肩を揺らし始めた。ああ、笑っている。

「……じゃあ、えっと、一緒に……」
「行くか」

二人で教室を出た時、苗字を可愛いと言っていた奴の文句が聞こえた。

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