この人が好きだと言いふらしたい
 

青く透き通っていた空が綺麗な赤に染まっていったり、騒がしかった公園がいつの間にか烏の声しか聞こえなくなっていたり、遊んでいた子供たちが一人、また一人と母親に手を引かれ帰っていったり。
今も昔も、楽しい時間が終わって最後に取り残されるのはいつも俺だった。
もう母さんが迎えに来ることは無い。そんなのとっくの昔から分かっていたし、こんな歳にもなって一人で帰れないわけでもない。でも、なかなか重い腰を上げることが出来ない。こうしていると、誰かが迎えに来てくれるような気がして。

どうしても暗いことばかりを考えてしまうので、思考を止めてブランコを漕いだ。子供用の小さいブランコだから地面に足がついて中々勢いは出ないけど、黙っていたら泣いてしまいそうだったから。悲しみから逃げるように、大好きな唄を歌いながら漕ぐ。俺の大好きな人の、大好きな唄。
すると、俺の声にもう一つ歌声が重なった。綺麗で透き通っていて、でもしっかりと芯が通った俺の大好きな声。
最後までしっかり歌い上げた後、声のした方を見ると呆れ顔でトキヤが立っていた。

「あなたはその歳にもなって、一人で家にも帰れないのですか?」
「トキヤ! 迎えに来てくれたの?」

嬉しくなって飛びつくと、「やめてください」と困ったように笑いながら頬をぎゅっと抓られた。それが全然痛くなくて、むしろすごく暖かくて少し涙が出そうになる。
あぁ、迎えに来てくれた。トキヤが、大好きなトキヤが。どうしても緩んでしまう顔を見られたくなくて、怖い顔で説教を垂れるトキヤの唇をキスで塞いだ。
すると今度は顔を真っ赤にして俺に背を向け歩き出すトキヤ。何度しても初々しいあの反応だ。それは俺も同じだけど。

二人赤い顔を夕陽で隠して寮への帰り道を並んで歩く。この道は人通りも少ないし、本当は手をつないで歩きたかったが、トキヤは人前でそういう事をするのがあまり好きじゃないらしい。俺は好きな人には何時でも何処でも好きって伝えたいんだけど。でも、トキヤに嫌われるのは嫌だから我慢。いや、でも、少しくらいなら……。
そっと少し上にあるトキヤの顔を見ると、ばちりと視線がぶつかった。何故か気恥ずかしくなって、どちらともなく目を逸らす。
寮まではあと数百メートル、俺の右手はトキヤの左手に近づいたり離れたりと落ち着かない。それに気づいたのか、トキヤの歩幅が少し小さくなった。これは、手をつないでもいいって事……?それを理解した時にはもう俺とトキヤの手は繋がっていた。
この手を通じて心臓の音がトキヤに伝わったらどうしよう。落ち着こうとすればする程心臓は速くなっていく。今トキヤはどんな顔をしているのだろう。もう一度顔を見上げてみると、またもや真っ赤な顔。この赤は夕陽のせいではなくて、きっと俺のせい。そう考えると俺の顔まで赤くなる。
俺、トキヤが好きだなあ。再確認した大切で愛おしい気持ちをトキヤの左手と一緒に強く握って、二人の大好きな唄を歌いながら帰った。


タイトルはごめんねママ



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