小さな世界で君と一緒に息をした
 

黄瀬♀/幼馴染設定


「秘密基地に行ってきます」
年齢のわりには丸みがかった文字でそう記したメモを置き、黄瀬は家を出た。まだ小学生だった頃に青峰と二人並んで歩いた通学路を真っ直ぐ行くと、小さな林に続く。なるべく虫が居ない道を探して林を進み、見覚えのある木々のアーチをくぐった。ざわざわと春の優しい風が木々を揺らし、太陽の光が青く茂った葉の間からきらきらと零れている。林の懐かしい匂いに気分が良くなり、鼻歌交じりに歩いて行くと古ぼけた小さな小屋が見えてきた。
「そのまんまだぁ……」
壁や屋根の劣化はあるものの、その小屋は昔、青峰と黄瀬が勝手に入り浸っていた時とほぼ変わらずに建っていた。

恐る恐る扉を押すと、少し唸りながらも扉は開いた。黄瀬はほっと胸を撫で下ろして中に歩みを進める。中はカビ臭く、歩くたびに床がぎしりと悲鳴を上げる。穴の空いた天井からは日光が差し込んでいて、埃がきらきらと輝いて幻想的な雰囲気を醸し出していた。
ぽつりと申し訳程度についた窓はすっかり割れ、外から草が侵入していてもはや窓の意味を成していない。
時の流れを感じ、少し寂しい気持ちになった黄瀬は、ふと壁の落書きに気付いた。
あおみね、きせ、と傘の下に下手くそな字で刻んである。微笑ましい落書きに思わず頬を緩めた時、扉がまた、ぎぎぎと音を立てた。

「なにしてんだよ」
「あ、青峰っち!よくここが分かったっスね〜」
「秘密基地つったらここしかねぇだろ」

黄瀬は青峰が覚えていてくれた事に満足気に笑うと、ぽつりぽつりと昔話を始めた。

「小さい頃は毎日ここに来たっスよね」
「そうだな」
「でも、小学校高学年に上がるに連れて青峰っち、私と遊んでくれなくなって」
「あ、あれは、ずっと女子と居ると周りが煩いから……」
「知ってるよ。青峰っち私と付き合ってるって噂が流れた時、からかう男子を片っ端から殴ったんでしょ?」
「う……」
「……私はあの噂、ちょっと嬉しかったけどなぁ」

青峰は黄瀬の言葉に驚いた顔をした後、少し照れ臭そうに頭を掻いた。少し耳が赤い青峰を横目に、黄瀬は言葉を続ける。

「ねぇ覚えてる? 青峰っちここで私にプロポーズしてくれたよね」
「んなの覚えてねーよ」
「えー!酷い!!」
「プロポーズならこの前しただろ?」
「うっ、でも、それとこれとは違うのー!」
「あーはいはい。ほら、明日は式なんだから帰るぞ」
「……はーい」

少し気に食わない様な表情をした黄瀬だったが、青峰が右手を差し出すとひまわりのような笑顔で自身の左手を絡めた。
今度来る時は子供と一緒に。
そう約束を交わした二人は秘密基地を後にする。
春風が、まるで祝福するかのように黄瀬の金色の長髪を優しく撫でつけた。

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タイトルは魔女



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