恋という名の海に突き落とされて、僕はどんどん溺れてく
 

寝苦しくて目が覚めた。腹部に重さを感じてゆっくり重い瞼を開けると、太くて筋肉質な腕が乗っている。クロの腕だ。
ひょろひょろで、骨と皮と、申し訳程度に肉がついている俺の腕とは違い、それは太くて頑丈で筋肉質で、男らしい。どうやら、俺の頭の下にも腕があるようだ。いま俺は、クロの腕枕で寝ている。包まれるととても落ち着く、大好きなクロの腕。
昨日の夜もそうだった。初めてだった俺を気遣って、クロはまるで壊れ物でも扱うかのように、優しく抱いてくれた。 その後、クロの腕の中が心地よくていつの間にか寝てしまったんだ。

少しずつ覚醒していく意識の中、昨日の事を思い出して、自分の格好に今更ながら恥ずかしくなってきた。ずっと、クロとひとつになるのが怖くて、適当に理由をつけては逃げてきた。体を重ねたら、もう後戻りは出来ないと思ったから。勿論俺はクロが好きだし、クロも俺が好きだから付き合っているんだと思う。だけど、俺たちは男だ。同性愛なんて世間からの風当たりが強いのは当然だろう。付き合っているだけでも普通ではないのに、性行為だなんて。臆病者の俺は、自分の気持ちとクロの気持ちに背を向けて、見て見ぬ振りをしていた。今思うと、本当に馬鹿みたいな話だよ。クロを好きって気持ちに、恥じる事なんて何もないのに。

気を紛らわせようとクロに顔を向ければ、音も立てずに寝ている。まるで死んでいるように静かだ。もしかしたら本当に死んでいるんじゃないか。おそるおそる手を伸ばして目にかかる前髪を払ってやると、僅かに眉を歪めゆっくりと瞼が開いた。

「ん……おはよう、研磨」
「ごめん、起こしちゃった」
「あー、大丈夫だ。どうした?」

まだ眠そうに大きな欠伸をしながら俺の頭を撫でるクロに、死んでるかと思った、なんて言えない。昨日は何時に寝たか覚えてないけど、クロのことだからきっと俺が眠るまで起きていてくれたのだろう。

「なんでもない」
「そうか。じゃあもう一回、おやすみ」
「うん」

おやすみ、クロ。
日が登り始めた。カーテンの向こうから淡い光が漏れて、暖かい気持ちになる。
起きるにはまだ少し早いから、そっとクロの指に自らの指を絡めて目を閉じた。クロの手は優しく温かく、すぐに睡魔が俺を襲う。眠りに落ちる間際、重ねた手をぎゅっと握ってくれた気がした。

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お題カカリア



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