ジョナディオ
 

「あれ、ディオ。映画観てるの?」
「うるさいな、見てわかるだろ?」

きっとディオは、今日もいつもみたいに小難しい本を、なんてことないような顔で読んでいるだろうと思っていた。そろそろページを黒く染める細かい文字に目が疲れる頃だと思って、紅茶を持ってきたのに。一緒に飲みたくて、カップは僕のとディオのでふたつ分。

「あ、僕これ見たことある。最終的に皆死んでしまうんだ」
「お前なぁ……普通そういう事を言うか? 良い性格してるな」

ソファの肘掛けに足を乗せている彼がこちらをジロリと睨んだ。行儀の悪い足だ。父さんや学校の皆が見たらどう思うだろう。

「この前僕が本を読んでる時に、君は同じ事をしただろう? お返しさ」
「くそ、生意気な奴め」

ディオはかちゃりと小さな音をたてて置かれたティーカップに砂糖をひとつだけ入れて、銀色のスプーンでかき混ぜる。目線はもうテレビ画面に戻されてしまった。

「それよりさあディオ、外に行かないかい? 今日は気持ちの良い天気だ」
「映画を観たいから遠慮するよ。君と草の上に寝転がって服が汚れるのも避けたい」
「そうかい、残念だ」

相変わらずディオの目線はテレビ画面に釘付けで、ちらりともこちらを見やしない。そんなに見入るくらい面白いストーリーでもないだろうに。

「お前も服を泥だらけにして帰ってくるのはやめた方がいい。紳士のすることじゃあないな」
「そうだね、気をつけるよ。じゃあディオ、キスを、しないか?」
「……何故そうなる? お前とキスをしたら、お前のそのでかい図体でテレビが見えなくなるだろう。却下だ」

へへ、あくまで僕より映画を優先したいだけで、僕とキスがしたくない訳じゃないんだ。ディオの足元に落ちているリモコンをひょいと持ち上げて、テレビに向けてボタンを押した。白と黒の画面はプツリと音をたてて黒だけになる。そこには、面白いくらい間抜けな顔をしたディオと、ニコニコと楽しそうな僕が映っていた。

「……お前はどうしたいんだ。このディオに構って欲しいのか? 生憎、お前に割ける時間は持ち合わせていない」
「うーん、キス」
「は?」

不機嫌を隠そうともせずに、眉間に深く皺を刻ませたディオはそれでも美しい。惚けたディオの唇にそっと自分の唇を重ねた。唇が触れている少しの間だけ、なんだか時間が止まってしまったような気がする。キスはきっと、僕とディオの時間を止める魔法だ。

「キス、したかった」
「……出て行け」
「そのつもり。 ダニーの散歩をしてくるよ。今日はほら、とっても良い天気だから」

だから、そう怖い顔をしないで? そう続けた僕は、テレビにもう一度リモコンを向けてから、逃げるようにではなく、何事も無かったかのような足取りでディオに背を向ける。ディオは、キスをした後決まって機嫌が悪くなる。僕はそれを照れ隠しだと認識しているが、そう思うのは少し都合が良すぎるだろうか。
背中から映画の音が聞こえた。きっと、さっきからまだ少ししか話は進んでいない。それは僕とディオが触れていたのがほんの少しの時間だった事からも分かるけれど、この映画はストーリーが進むのが遅い事を僕は知っているんだ。だからつまらない。ディオだってもうとっくにこの映画には飽きていて、今は僕とのキスで頭がいっぱいさ。



しあわせはきっとほら、君のてのひらのなか
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