ジョナディオ
 

古いピアノの蓋を持ち上げると、ぎぎぎと耳障りな音をたてて開いた。モノクロの世界で真っ赤な布が目に痛い。ディオはその布を少しずらして、埃ひとつ無い真っ白な鍵盤を撫でる。適当な場所を人差し指で押すと、ぽーんと音が弾けた。

「綺麗なのは顔だけじゃあないんだね」

後ろでジョナサンが優しい顔をした。何故そんな事をいちいち口に出すのだろうと、ディオはいつも不思議に思う。気持ちを言葉にするのはあまり好きではない。苦手なのではなくて、嫌いだ。特にジョナサンの前では、いらぬ事まで口にしてしまいそうだった。

「君の手はとても綺麗だ」

実の父を殺した手。沢山の物を奪って、汚して、殺した手。幸せしか知らない無知なジョナサンには想像もつかないような、汚い事ばかりしてきた手。赤黒い血がこびりついたこの手を、綺麗だと言われたのは初めてだった。

「フン、君は変わっているね」
「そうかな?僕は普通だよ」

鍵盤に乗せたディオの右手に、ジョナサンが同じように自分の右手を重ねる。自身の氷のように冷たい手とは正反対の、陽だまりのように暖かい手に触れるのは好きではなかった。こんなに暖かい手に触れているのに自分の手が暖かくなる事は無く、ジョナサンの手もまた、ディオのように冷たくならないから。二人はどうやったって相容れない関係なのだと、手と手を重ねるだけで分かってしまう。その事に対して、どう言葉にしていいのか分からない感情が生まれるのだ。
悔しいような、悲しいような、寂しいような。怒りでも悲しみでも無い、不思議な気持ちになる。この気持ちは好きでは無いと、ただそれだけは分かった。

「離してくれないか」
「うん、ごめん。あと少しだけ」

手を握る訳でもなく、ただ重ねられた手。いつまでも暖かくならない手と、いつまでも冷たくならない手。
何を思ってこんな事をしているのだろうか。ジョナサンの表情を伺うと、まるで恋をしている少年のような瞳と視線がぶつかった。

「なんて顔をしているんだ?ジョジョ」
「実はね、僕は君の事が好きなのかもしれないんだよ、ディオ」

くらりと眩暈がした。こんなに何もかも真逆で、同じ所といえば性別くらいの俺たちが一緒になったとして。果たして、少しでも幸せな事や明るい未来があるのだろうか。ジョナサンの唇に噛み付きながら、ディオは思考を巡らせる。



出逢ってはいけない運命だった
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