にこまき
 

「ルビーみたい」
そう言って真姫ちゃんはにこの瞳を覗き込んだけれど、これはそんなに綺麗なものじゃなくて、本当はただの真っ赤な石ころ。真姫ちゃんに見て欲しいから赤色に塗って、綺麗に磨いて、本当を隠した偽物。アイドルなんて皆そう、にこだけじゃないわ。可愛い衣装に身を包み、流行りのメイクをして本当の自分を偽るの。頭の悪そうな歌を歌って、真っ赤な唇からは耳障りな高い声。ごてごてに着飾っていたら自分でも本当を忘れてしまったわ。
昔はあんなに楽しかったのに。いつの間にかそんな感情は、観客のやかましい喧騒の中へ消えてしまった。声援も、私を呼ぶ声も、昔は大好きだったのに。ファンの笑顔があれば、他には何も要らないと思ってた。それだけが私が歌う理由だった。なのに、どうしてだろう。何が悪かったのだろう。小さな頃からずっと憧れてきたアイドルは、皆こんな気持ちで歌って、踊って、笑っていたのだろうか。私は、そんな偽物にずっと憧れていたのだろうか。馬鹿な話。馬鹿、あり得ない、ずっと騙していたなんて。でも一番馬鹿なのは分かってる、私だわ。馬鹿だと分かっていながらもなお、自分を偽物で飾って、気持ちの悪い偽物の"矢澤にこ"を演じている。世界でいちばん馬鹿で、愚かで、醜い。
鏡と向き合えば見慣れた可愛い笑顔。完璧で隙の無い、みんな大好きな可愛い私。でも、ちっとも可愛くないわ、こんなの。

真姫ちゃんが好きだと言ってくれるにこは、どっちの矢澤にこ?本物だと言って欲しいけれど、偽物が完璧すぎて、本当のにこを好きだと言ってもらえる自信が無いの。

「ルビーみたい。燃えているみたいに真っ赤で綺麗ね。いつも着ているピンクのひらひらした衣装よりも、にこちゃんにはこっちの色の方が似合ってると思うわ」

あぁ。

「にこちゃんもそう思ってるんじゃない?当たり前かもしれないけど、テレビで見るにこちゃんより、今のにこちゃんの方が可愛く見えるわよ」

真姫ちゃん。

「ちゃんとご飯食べてるの?何かあったら言いなさいよね。わたし医者なんだから、健康についてはにこちゃんより知識あるのよ。それに、高校生の頃からの付き合いだし、そこらの人よりよっぽど知ってるのよ?貴女の事」

あぁ、真姫ちゃん。貴女のアメジストは本物だわ。



マリアに縋る女
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