真東
 

「もし明日世界が終わったらどうします?」

 部活終わり、サイクルジャージを脱ぐ東堂さんは不思議な顔で俺を見た。

「何の話だ?」
「ぐわーって、どかーんって隕石がいっぱい降ってくるんですよ」
「ふむ、あまり想像がつかないな……」
「じゃあ、明日世界が終わったらごっこしましょう!」
「は?」





 『今日の夜、山のてっぺんで世界が終わったらごっこしましょう』

 最初は夜の山は寒いだとか寮だから無理だとか言っていた東堂さんも、俺がこれから一度も遅刻しないという条件付きで渋々承諾してくれた。東堂さんは俺に甘いと思う。それに甘える俺だって、少しは罪悪感を感じているという事を分かってほしい。
 
 夜の山は想像してたよりずっと寒い。だから言っただろうと、東堂さんは自販機で温かい紅茶を買ってくれた。あ、俺、また甘やかされた。
 ピクニックシートを敷いても背中は痛い。二人で寝転がって、目の前は満天の星空だ。雲が無くて、月も綺麗。ひとつ、星が流れる。その後に続くように、ひとつ、またひとつと次々に流れた。

「今日は流星群だもんな」
「なーんだ。東堂さん知ってたんだ」
「まあな」
「これ、なに流星群ですか?」
「さぁな、忘れたよ」
「東堂さんにも分からない事ってあるんですね!」

 へへ、なんだか嬉しいなあ。俺は知ってたけど忘れちゃった。東堂さんと流れ星が見られるなら、なに流星群だって関係ないんだ。

「分からないんじゃない、忘れたんだ」
「はーい」

 東堂さんの手、あったかいな。手と心があったかくて、なんだか泣きたくなってくる。幸せすぎると泣きたくなるんだ。目の奥がじんと熱くなった。
 ねぇ、このまま本当に終わっちゃえばいいのに。東堂さんとこうやって手をつないで、大好きな山のてっぺんで寝転んで、そのまま流れ星にぶつかってしんじゃうの。

「それってすごくロマンチックじゃないですか?
「俺はまだやり残した事がたくさんあるからなぁ」
「もー、少しくらいのってくれたっていいじゃないですかー」
「でも、俺が人生に満足してしまって、もう終わりでもいいかなと思った時。その時はこうやってしんでもいいな。ロマンチックだ」
「本当? 約束ですよ」

 案外欲張りな東堂さんが、人生に満足する日が来るなんて思えないけど。でも、もし本当ならその日が待ち遠しいな。それが何年後でも、何十年先の話でも、俺はきっと東堂さんと星を見に行く。

「真波、キスしようか」

 東堂さんからキスをしてくれるのは珍しい。大好きな、綺麗で整った顔が近づいてくる。ちゅ、って短いキスだったけど、それだけで俺は星なんてどうでもよくなった。今度は俺から口付ける。長いまつ毛がランプの灯りで顔に影を作っている。
 約束ですよって、東堂さんにはそう言ったけど、俺はやっぱり今ここがいい。幸せな時間を分け合っている時にしにたい。幸せなまま終わりたい。

「流れ星に何か願ったか?」
「うーん、秘密!」

 どうか、あの星の終着点が俺たちでありますように。


ほどけた宇宙でワルツをおどろう
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