承花
 

n巡後、2人共スタンドを知らない世界


 空条家の夏は日本の夏だ。風鈴の涼しげな音と蚊取り線香の匂い、自分の汗まで風流なものに思えてしまう。

「久しぶりに食うな」
「そうだなぁ。かき氷なんて、小学校以来かもしれない」

 今日は空条家でかき氷をご馳走になっている。ホリィさんが、家の掃除中にかき氷機を見つけたからと俺に声を掛けてくれた。そういえば、手動のかき氷機なんて最近じゃあめっきり見なくなったなぁ。

「あ、承太郎もう青くなってる」
「ん、お前も緑色だぜ」

 べー、と色っぽい唇から覗いた承太郎の舌は綺麗な青色に染まっていて、同じように僕の舌も緑色をしているらしい。それにしても、舌を出すなんて間抜けな顔をしても格好良く見えてしまうから承太郎は流石だ。普段より別段男前のように思えるのは、この季節、このシチュエーションに僕の気分が高揚しているせいだろうか。

「お前が魔法を使えたら、きっと、緑色できらきらしてるんだろうな」
「なにを突然。君がそんな事を言うなんて珍しいね」
「別に。なんとなく思っただけだ」

 承太郎も気分が良いのだろうか。帽子に隠れていない目は、いつもよりどこか柔らかく見えた。
 それにしても、魔法かぁ。そんなのは考えた事もなかったけれど、もし魔法が使えたら承太郎の考えている事が知りたいと思う。どういう気持ちでこの話題を僕に振ったのだろう。知りたい。もっと、承太郎の気持ちを。

「承太郎の魔法は青くて強いだろうな」
「お前、舌を見て言っただろ。安直すぎじゃあないか」
「承太郎だってそうだろ。 それに、それだけじゃないんだ」

 承太郎は海みたいだ。時には優しく心地よく、時には恐ろしい程に荒々しい。でもやっぱり、ただの水だろうか。海水とか塩じょっぱいやつじゃあなくて、生きるのに必要なただの水道水。水はそこにあるのが当たり前で、だけど不足したら死んでしまう。でも、多すぎてもいけない。溺れてしまうからね。つまり、承太郎は僕にとってのそういう存在なのだ。

「他にどんな理由があるんだよ」
「うーん、秘密」
「なんだと?」

 僕ばかりが承太郎の考えている事を気にしているなんて、そんなのズルじゃあないか。たまには承太郎も僕の事を考えてみればいいんだ。
 家の奥でホリィさんが僕と承太郎の名前を呼んで、「かき氷のおかわりはいかが?」と。もちろん僕はそれに「いただきます」と答える。ホリィさんはかき氷機を回して氷を削っている時、まるで少女みたいな、とても楽しそうな顔をするんだ。

 今度はブルーハワイを食べよう。そしたらきっと、僕も承太郎の魔法を使えるようになるだろうか。



どうせなら夏に抱かれて死にたい
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