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あなたのそういうところが好きなの

生存ブチャラティ


 体を小さくして俯きがちに座るブチャラティと、足を組んで眉間に皺を寄せているジョルノ。二人に挟まれたテーブルの上には小さな少女が座っている。綺麗な金色の髪を左右対称に巻いた、美しいアンティーク人形だ。

「どうしてアンタはいつもそうなんです」
「そう、とは?」

 わざと分らない振りで顔を上げたブチャラティは、少ししてジョルノの視線に耐えられずにそっと下を向く。普段のきりりとした男前とは別人のようだ。下を向くと、ばちりと人形のガラス玉と目が合って恨めしい気持ちになった。お前のせいで俺はジョルノに怒られているんだぞ、どうしてくれるんだ。と。
 ブチャラティは、買い物の帰りによく道草をした。雑貨屋を覗いたり、市場に足を運んだり、露店が出ている時はリングを指にはめてみたり。まるで子供のように。そうして何か気に入った物を見つけると、すぐに買ってきてしまう。

「別に、金の無駄遣いって訳じゃあないだろう?」
「……無駄ですよ」

 無駄無駄、と呟いてジョルノは足を組み替えてから腕を組む。
 この洒落たアンティーク人形の他にも、部屋にはブチャラティの買ってきた物が沢山ある。小さなガラスの置き物から高さがジョルノより少し低いくらいの電気スタンドと、大きさはバラバラだ。ティーカップなんて、もういくつあるのか分らない。でも、いかにもレプリカのようだけれどきちんと美しい絵画は、実はジョルノのお気に入りである。ブチャラティ曰く「ジョルノみたいな絵」らしいのだが、額縁の中には金色の麦畑が広がっているだけで人の影は見えない。ブチャラティが愛おしそうにこの絵画を見つめるたびに、ジョルノは心の中で首を傾げる。

「なぁ、見ろよジョルノ。 この人形はお前にそっくりだろう?」
「そうですか? 似てるのは髪の色くらいだと思いますけど」
「雰囲気、だろうか……」

 ブチャラティは、きっと話を逸らそうとしているんだろうなと分かった。もうジョルノの中に怒りは無い。そもそも、はじめから特別怒っていた訳ではなかった。いつもいつも、買い物を頼むと帰りが遅くて、心配して待って居ると「お土産」を手に笑顔で帰って来る。それが少し嫌だっただけ。でも、ブチャラティが買ってくる物は全部「ジョルノの為」で、それはどうしても嬉しかった。

「あの赤くて小さい花がついたカップは好きです」
「え?」
「このバレッタも、装飾が綺麗で気に入ってます」

 最近は、ブチャラティに出会った頃よりもだいぶ伸びてきた髪を後ろで留めている。バレッタはこの間ブチャラティが買ってきたものだ。例によって遅くに帰ってきたブチャラティを今日こそ怒ってやろうと思っていたのに、「ジョルノに似合うと思って」と手渡されてしまえばもうどうしようもない。
 本当は、ブチャラティが買ってくる物が無駄だとは思っていない。ブチャラティがジョルノを思って買ってくる物を無駄だなんて思える筈もなかった。けれど、少し嫉妬はしていた。僕の事を思い浮かべて人形を買う暇があるなら、すぐに帰ってきて僕を抱きしめてくれればいい、と。

「今度から、買い物は僕も一緒に行きますよ」
「と、突然だな……でも、お前が仕事で遅くなった日は?」

 ギャングのボスになったジョルノは毎日たくさんの仕事に追われている。要領の良いジョルノはフーゴのバックアップもありなんとか上手くやっているが、それもいつまで続くことやら。実のところ、ジョルノも一杯いっぱいだった。

「僕の仕事が終わるまで待っていればいいでしょう?」
「はぁ?! お前の仕事が終わるのを待っていたら店が閉まっちまうだろう!」
「ブチャラティが僕の仕事を手伝ってくれたらすぐ終わりますよ」

 最初とは打って変わって、にこにこと笑顔を浮かべるジョルノにブチャラティは参ってしまった。いつもは手伝おうかと聞けば首を横に振り、「僕の仕事ですから」と言ってコーヒーだけをねだるくせに。ずるいなぁとブチャラティは思う。どうせまた、コーヒーしか淹れさせてくれないくせに。

「いいぜ、分かったよ」
「じゃあ、さっそく明日からですね」

 その日食べたい物を二人で出し合って、一緒に食材を選んで、同じ家に帰る。そんな新婚のような毎日を考えるとブチャラティは首を縦に振るしか選択肢はなかったし、ジョルノだってどんな仕事でもすぐに片付けられる気がした。同じ家に住み始めてからもうだいぶ経つのに、二人はまだ一度も並んで買い物をした事がない。

「僕が隣で買い物かごを持ちますよ。 そうしたら、ブチャラティは本当に買わなければいけない物の事だけ考えられますね」
「まるで、いつも俺が"本当に買わなければいけない物"以外の事を考えているみたいだな」
「ふふ、僕の事ばかり考えているくせに」
 
 ジョルノの言葉を聞いたブチャラティは、少しだけ照れたような、恥ずかしそうな顔をした後に「まぁな」とだけ答えた。その返事にジョルノは気を良くする。
 人形は絵画の飾ってあるすぐ近くの棚に落ち着いた。これがきっとブチャラティの買ってくる最後の"ジョルノ"だろう。そう思うと、ジョルノはやっぱりこの人形もどうしても好きになってしまうのだった。

「これからはちゃんと僕がブチャラティの隣に居ますよ。 だから、ありがとう」

 そう言って、ジョルノは自分とお揃いな人形の髪にキスをした。キッチンからは夕飯の匂いがしている。

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タイトルはache

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