本末転倒B

さて、問題は方法だ。
「というかまず授業中に寝ないようにしなきゃいけないんだけど、この人」
どうする?と佐助が困ったように問いかけた。

お館様絶対な幸村が練習量を減らすわけがないとわかっている以上、あまり無理をさせてまで勉強をさせたくはない。そのためテスト一週間前には出そうなヤマ場をしっかりと覚えさせる。そのくらいは手伝いたいと思えるほどには親しい。

しかしそれでもある程度問題をわかってくれないと困るのだ。そのため暗記の出来ない(公式は暗記になるが他の教科と比べたらまだ土台が必要な)数学の時間くらいは夢の世界に旅立たないでほしい。


「それならいいもん持ってるぜ」
何かピンと来たらしく政宗はポケットからチューブ状のものを取り出し幸村の目の周りに塗る。何を塗っているのかは佐助の位置では見えなかったがリップクリームでも塗っているのだろうかとぼんやり思った。

「む、なんか目の周りがスースーするでござる」
目をぱちぱちと瞬かせて幸村は半分まぶたの閉じていた目は部活時のような生気のある目に変わる。

「おー起きた起きた。すごいじゃん。政宗何塗ったの?」

「ん?何って、ワサビ」
「ぎゃああああああああああああ」
「旦那急いで目洗えええええ!」

両手で顔を再度覆いじたばた暴れる幸村。悲鳴と共に部活で鍛えた瞬発力で教室を出て行った。
「目がぁあ目がぁああああ」
なんて断末魔みたいな声が聞こえてくる。
「ムスカ?」
「んなこと言ってる場合か!」


結局その行動が功を奏して幸村の目はばっちりと覚めた。覚めたのだが幸村の心には見事トラウマを残すことになるのである。
もちろんそんな状況で授業に集中出来るわけもなく。


本末転倒とは、まさにこのことを言うのだろう。


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