本末転倒A


「…次の期末の結果次第でレギュラー外されるかもしれぬでござる」
どんよりと幸村の周りだけ暗雲が立ち込めた。この学校では赤点を取ると強制的に補習となり大会には出してくれないと決まっているのだ。たまに特例で顧問が許してくれる場合もあるがそんなもの頑固者の信玄が認めるわけがない。

「さーすーけー…」
「助けを求めたって無駄だかんね」
俺だって最近成績やばいんだから。自分のことで精一杯だと佐助は顔をそらすがこういう時の幸村は非常にしつこい。
「頼む!佐助!これを落としたら俺はレギュラーどころか留年になってしまうかもしれぬ!留年だけは嫌だ!卒業式にひとりで在校生側に立つなんて孤独すぎるでござる!それともなんだ、前にお前の菓子を勝手に食べたのをまだ怒っているのか!あれならまた買ってくる!代わりに俺の団子もやる!だから……」
「あー!わかったわかった!」

まだまだ続きそうだったので強制的に切った。教室の中で微妙に笑い声が聞こえた気がする。猿飛菓子ぐらいで怒んなよとか笑ってる奴殴んぞ。


「……で?」
「む?」
「アンタ苦手な教科なんだっけ」
「……数学」
「数学?」
「あと現代文と世界史と化学と英語と古典と物理」
「全部じゃねえか!」
教室の笑い声が一層強くなった。


「Hey 何漫才やってんだお前達」
どうやら一部始終を見ていたらしい政宗が教室にやって来た。

「政宗殿!」
その声に目を輝かせて振り返る幸村。机を挟んで佐助の真向かいに立った。佐助が事情をかいつまんで話す。
「……アンタらしいな」
口端を上げて政宗は可笑しそうに笑った。
「せっかくだから政宗も手伝ってよ。俺ひとりじゃ旦那の成績をどうにかするなんて無理」
「助けてくだされぇええ!このままではひとりで在校生側の席に座って蛍の光や仰げば尊しを一年多く歌わねばならないのでござる!」

「! どうして、アンタの言い方はそう……」
どうやら笑いのツボに入ったらしい。口に手を当てて政宗は少しの間俯いた。

「面白そうだから手伝ってやるよ」
震える肩が治まると政宗は一言救いの手を差し伸べる。そして幸村の顔がぱあっと明るくなった。良くも悪くも自身の感情にに正直なのである。


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