留文←仙で小ネタ 前




「頼む、文次郎……」
「嫌だ」
「一度で良いんだ、なあ!」
歩き去ろうとする文次郎の肩を強引に掴み留三郎と視線が合った。
「しつけえよ馬鹿!」
「言ってくれたらもう言わねえから!」
「嫌だ!」
「なんで!」
「知るか!」
子供のようにぎゃあぎゃあと叫び殴り蹴り頭突き合うふたりを止める者はいない。忍術学園ではこれがいつものことなのだ。
下級生がその剣幕に元来た道をそそくさと逃げ帰ったり怯えたりしているが最上級生は慣れたもので、いつものことだと一瞥する。
昔は密かに賭けの対象にもなっていたりしたのだがあまりに喧嘩の頻度が高いので面白みがなくなりすでに皆の興味は薄れていた。
ちなみに悪乗りをしやすいのが六年生の特徴。賭けを止めるものは誰もいなかった。
ある意味一番子供な学年なのかもしれない。

閑話休題。
件のふたりの様子がいつもと違うことに気付いているものはいるのだろうか。

「いきなり何言ってんだテメェは!?」
「俺は本気だ!」
「尚のこと悪い!い、いきなり…す、」
好きだなんて、言えるわけないだろ!
そんな事を叫べるはずもなく文次郎は言葉尻をごにょごにょと誤魔化した。
しかし留三郎もそう簡単には引き下がるつもりはない。
いまだ留三郎の手は文次郎の両肩に置かれており逃げられないように力を込めた。
場所が場所ならこのまま抱きしめて、もっとこの気持ちを簡単に伝えられたのかもなとぼんやり考えた。
しかし軽く頭を振って気持ちを切り替える。
「お前の口から直接聞きたいんだ」

「お、おいどうしたんだよ……?」
いつもと様子の違う留三郎に気付いた文次郎は吊り上げていた眉を下げて今度は心配そうに声をかける。

「なあ、留三郎」
こうやって名前を呼んでくれるだけでも嬉しかった。嬉しかったのに。

いつから俺はこんなにも強欲になったのだろう。

「どこか痛むのか…?殴りどころが悪かったのか…なあ、おい」

態度だけじゃわからない、なんて。
本当はわかってる。わかっているつもりなのに、言葉にしないと安心出来ない。
誰かに取られてしまうんじゃないかって。

お前は本当に俺のことが好きなのか。

嫉妬に狂うなんて物語の中でしか聞いたことのないそんな馬鹿げたことをしてしまいそうになる。
こんなこと、お前だけだ。

「私はな、文次郎に好きだと言われたよ。お前とは気が合うと」
いつのことかは忘れた。
仙蔵がにやりといつものように、いつもより酷く美しい笑みで留三郎にそう言ったことがある。
「私か?もちろん私も好きだと答えたさ」
お前のように私のことを分かってくれる奴は他にはいない。そう答えたらあいつは笑っていたな。
絹糸のような髪が風に揺れさらさらとふわふわと揺れ動いた。

「随分、不満そうな顔だな?」
にやにやと顔を覗き込まれ留三郎は思わず後ずさるがそれすらも仙蔵には笑いの種となるらしい。
「お前はあるのか?」
仙蔵のように好きだと言われたことが。
気が合うと言われたことが。
笑ってくれたことが。






まだ続くよ。


[ 7/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -