作家伊達続編
作家伊達の続編
タイトルは先生、遊びましょう。とかでいいんじゃない。



伊達政宗という人がいた。
とてもとても有名な小説家だった。彼の書く文は、時に繊細で時に荒々しく、見る者の心をわしづかみにしてしまう。そんな男だった。
そんな魅力的な彼だからもちろん恋人はいた。
名は真田幸村。ミドルネームは源二郎。その立ち振舞いは凛として雄々しく、まさに日本男児は彼のことを表している言葉であった。
寄り添う姿は他の誰をも寄せ付けない。まるで貝のように、代用品を探すことはできない二人だったのだ。
そして、付き合って三ヶ月が経ったとある日。

「結婚しよう、君と一緒になれるなら俺はモロッコに行く覚悟はできている」
「幸村……ありがとう」
こうして二人はめでたくゴールインしたのである。



「……なんですかこれは」
「それがしと政宗先生の恋愛ほのぼの日常物だ」
「アンタ今度のは戦国時代の伝記書くって言ってたじゃないですか」
「そんなもんは知らん!」
「はあ!?ふざけんなよ!こちとらアンタのために資料集めから三時のおやつまでどんだけ労力かけたと思ってんだ!」「あれも編集の仕事だろう」
「そんなわけあるか!」

編集者である猿飛佐助を、手足のようにこき使う彼の名前は真田幸村。ここ最近独自の世界観と重厚な作風により注目されはじめた有望株である。

彼は最近高校を卒業したばかりの若手であり、高校時代、図書室で見つけた本に感銘を受け、この人のような話が書きたくてこの世界に入ったのだと鼻息荒く佐助に語ったのは最近の話だ。

ピンポーン。
「む、佐助、誰か来たぞ」
「……はいはい先生」
暗黙の了解にしぶしぶと立ち上がる佐助。
しばらく話し声が聞こえたかと思うと、何かを小さな包みを抱えて戻ってきた。
「宅配便ですけど、なんか頼んだんですか」
「おお、来たのか!」
受け取ったそれを幸村に渡すと嬉しそうに飛びつき手早く中を確認する。

「今度の話はどんなものだろうか」
掲げられたそれは、鮮やかな青色の装丁の本だった。
「あ、それ」
「政宗先生の新作だ!」
「あっ、読むんなら仕事してからにしてくださいよ!」
「知らぬ!」

ページを開き幸村は文字を追い始めて聴覚を意図的に排除する。
「明後日までに80Pあんのにぃぃぃ……」
この状態になると何を言っても無駄だと知っている。佐助はテレビに目を向けた。
「その先生、俺も好きですよ。甘ったるい綺麗事だけじゃなくて辛辣で」
こんな話書ける人ってどんな人なんでしょうね。
ニュースを目で追う佐助の呟きを、幸村はもちろん強く凛々しく聡明な方に決まっていると間髪入れずに返した。
実際見たこともない人によくもそこまで陶酔できるものだと感心しながら、毎回奥付の写真は酒瓶だしなあと佐助はぶつぶつ考えこむ。
「…………よし、先生」
その一言に顔を上げる幸村。
「じゃあ、二人で伊達先生、見に行きましょうか」
「おお、いいのか!」
担当である小十郎とは一応懇意なのだから少しくらい融通を聞かせてもらおう。
「その代わりさっきの原稿伝記物に戻して〆切までに間に合わせてくださいよ」
「任せろ編集」

佐助がどんな難癖をつける作家でも期日までに間に合わせる術は絶妙なタイミングでのアメなのである。



「さあ行くぞ!」
「本気出してこれとか普段どれだけ手を抜いているかわかりますね」
「違うぞ佐助、政宗先生が俺のドーピングとなっているのだ!」

「ドーピングって……」
遠くに出るには絶好の天気だった。幸村の家と伊達の家は双方都内にはあるもののそれなりに離れているらしい(新宿⇔池袋より遠くて新宿⇔東京よりも近い距離ぐらいと考えてください。都内とかよくわからん)。

「ちなみに片倉さんに黙って来たためアポなしです。」

会社に置いてある控え通りに向かうと今時見れないようなボロアパートに到着。
「……本当にここなのか」
「地図ではここですよ」

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンと、幸村ピンポンは連打しピンポンた。
「ちょっと、アンタ何やってんだ!」
「確かめなくてはわからないではないか」
「だからって連打するやつがあ……」
当たり前だがその音に反応したらしく、扉の内側から誰かが近づいてくる音がする。
立て付けが悪いのか床を擦りながら扉が開いた。

「……何度も、何度も、ピンポン連打してんのは、テメェかああああああああああああああああ!!」

鬼がいた。
伊達政宗の担当である片倉小十郎だ。

「うわああああ片倉さん、いたの!?」
「くだらねえイタズラの正体はテメェか猿飛!」
「違います違います違います!本当に俺ではないんですごめんなさい!悪くないけどごめんなさい!」
「ままま政宗先生はヤクザだったのか!?」
ピンポンピンポン驚きのあまりにピンポンをさらに連ピンポン打ピンポンピンポン。
「テメェもいい加減ピンポン止めろ!」
ピンポンゲシュタルト崩壊。
「旦那やめてやめてこの人怒らせると本当に大変なのもう本当に怖いのマジで」
そろそろ近所迷惑になりそうな具合に言い合いをしていると扉の奥から物音が聞こえてきた。

「Hey 小十郎、なんだかにぎやかじゃねえか。お前の客か?」

「先生!」
「先生?ってことはまさかアンタが……」
「だっ、伊達先生!」
渦中の中マイペースに現れたのは着流しを身にまとい、年齢は二十代前半程だろうか、右目に白い眼帯を付けた青年だった。

「お、俺のことを知ってくれているとは光栄だな。」
「おおおおお俺は、一年前、あなたの話に一目惚れをしました!今俺がこの道を歩み始めたのも先生のおかげです!あなたの書く話はどれも幽玄で荘厳で!とにかくその、好きです!」

突然の大絶叫に呆気にとられていた政宗だがその内容に、活字ばなれしているこんな世の中で俺の話が好きだなんて、アンタはよっぽどの変わり者だと両目を細め政宗は嬉しそうに笑う。

「いっ、いっ、いえいえいえいえ!!そんなことはないです!」

「何のんきに話しているんですか!先生は早く作業に戻ってください!あれほど出てくるなと言ったでしょうが!」
「いいじゃねえか、それくらい。小十郎、第一お前はいつも一言目には仕事しろ仕事しろだ。そんなに俺に過労死してほしいのかお前は」
「それくらい言わないとあなたは筆を握ろうともしないでしょう」
「あーやだやだ。これだから仕事人間は」
「誰が俺の仕事を増やしていると思ってんだ!」
ぎゃいぎゃい玄関で口論をする政宗と小十郎。
それと対照的に静まり返る幸村と佐助。

「ま、政宗殿はやはりそれがしの想像の、いや想像以上のお方だった」
「あ、そう?」
幸村の言葉を聞き返すも、腕を組んで眺める佐助の視線の種類に小十郎が気づく。

「猿飛、」
「え、やだなあ片倉さん!そんなこと思ってませんよ」
「お前が一番信用出来ねえ」
「ひっどー」
その様子を横目で眺める政宗は腕を袖口に入れる。
「小十郎、いつまでも客を立たせっぱなしにしてんじゃねえよ」
伊達家に恥をかかせる気かと小十郎をつま先で軽く蹴る。
そして客人にうやうやしく一礼をし、むさ苦しい我が家にようこそと笑った。
「うお、これは……」
四畳半に広がる原稿用紙、洗濯物の山、インスタントの残骸、そしてなにより圧倒多数を占める酒瓶。よくもまあ狭い部屋にこれだけものを置けるものだと息を飲む。
男四人が立つだけでもう暑苦しい。



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