00.プロローグ














子供は俯きがちになりながらもこちらを見ていた。
しかし見えてはいないのかもしれない。
なにしろ子供の顔の半分は、ボサボサに伸びきった前髪で覆われていたため、こちらからも全く見ることはできなかったから。
すぐに前髪に手を伸ばして払ってあげられるほどの距離ではないが足を動かして近づけばすぐに埋まるだろう。
それをしないのはさっきの"お出迎え"を見てしまったから。
見なければ、出なければよかったのに、その日はちょうど身体が弱く、あまり外へ出られることのない彼女の久しぶりのお出かけだったから。
あんな"お出迎え"を見るなんて、思いもしなかったから。
ワクワクした気持ちを隠せずはしゃいでしまって、繋いだ手をぶんぶんと振り回し年上のあの人を困らせてしまったっけ。
そういえば、その日の朝は空気が冷たく感じ、なんだか嫌な気分になるなあと思った。
もしかしたら外へ出るなという神様からのメッセージだったのかもしれない。
なんて今更言ってもしょうがないのだが。
もしも今ここに、子供と自分以外の人間がいたらどうなるのだろう。
あの渦の中にいた子供と一緒にいて、子供の前髪を払ってやるという、村が人間と認める生き物にするような行為をした……それを見た人はきっと村への裏切りなんだと思うかもしれない。
まだ同じく子供である自分にだってその日の情景を思い返すだけで自分の生きる人の世の現実が分かってしまったからそう考え着いた。
可能性は0じゃない。
だからこれはただの自分の弱さ。
子供にそのようなことをして、周囲の人間から自分へ向けられる視線に篭る感情が変わってしまうことがこわいのだ。

ただ黙って何もせず、子供に視線を向けるだけの自分を見て何を思ったのだろう。
子供は少しだけ、ほんの少しだけ口を動かした。

「……」
「……そうだね」
「……」

しばらく二人の子供のこそこそとできる限り潜めた、小さな声での会話が紡がれていた。
二人の子供は足を動かさない。
きっとそれは、そうすることでお互いがどうなるのかどこかで分かっていたから。
身体に距離のある中での会話。
正しく言葉が伝わっていたのかは分からない。
ただ一つだけ、子供が気づかない中、隠れて耳を澄ませていた彼女にも聞こえていた言葉があった。







脳が正常に動いていないのか、理解するまでに時間がかかった。
理解した瞬間、驚愕のため、心臓が激しく動悸し喘ぐような呼吸になる。
それを隠すため咄嗟に彼女は自分の腕へ顔を強く強くうずめ、押さえつけた。
子供らに見つかってしまっては彼女の積み重ねた行動、紡いで来た物語の全てが無駄になってしまうから。
喘ぎに自然と涙を張った瞳で子供の観察を続ける。
涙は喘ぎだけのせいなのか、彼女が長らく抱え込む感情のせいなのか……きっと彼女にも分かっていない。
それにしても、なぜあの子供はあんな言葉を吐いた……?


















「じゃあ、私がつけてあげる。あなたの名前ーー×××。ね、どうかな……?」

子供は一度もあげることのなかった顔をあげた。







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