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ep.06[Liar]

 帰り際、送っていくと言っていたエリスはアンリに一つの疑問を投げかけた。

「どうして、皇族はアンリさんやブランシェくんを高位につけたんでしょうか」
「大方、適合者を監視の目が届く上層に置いて、逃げられないように縛り付けておくためだろう。治安局はともかく、年功重視の法制局で若い俺が議長にされる理由が他にない」
「ミュータントを迫害するわりには違法な人体実験にも手を出していますし」
「おい」

 皇族を批判するような発言をアンリは制止したが、エリスは構わず続ける。

「皇族の命とあればいくら法制局といえどうかつに口出しできない」
「エリス!」
「まあおそらく、皇族もクロって事でしょうか」
「は?」

 アンリは一瞬耳を疑った。皇族がクロ、つまりミュータントを迫害する皇族自身がミュータントだという矛盾。
 それ以上に、自分の立場もそれに対する処遇も気にすることなく皇族への批判を続けるエリスの発言。まるで皇族を、政府を、上層部を試しているかのように。

「クロってどういう事だ」
「ほら、ディストピア作品の定番ですよ。違法行為を取り締まるはずの政府が実は違法行為の温床だったというパターン。現実がどうかはともかくこの世界が戯曲ならば、間違いなく黒幕は……」
「エリス……迂闊なことは言わない方がいい」

 エリスが言わんとしていることは、ディストピア作品というものをよく知らないアンリにもわかった。

「そうですね、これは私の考えた架空の話ですから、忘れてください」

 エリスは一つ、嘘をついた。これらがエリスの考えた架空の話でないということはアンリにとって火を見るより明らかだった。

 翌朝エリスは仕事を休んだ。事務の人によれば欠勤の連絡もなかったらしく、代わりの者を立てたりなんだりで局内は慌ただしかった。
 彼は多少抜けているところはあっても欠勤の連絡は当然のこと、スケジュールの管理や細かいところまで気配りのできる、律儀で真面目な男だ。そんなエリスが無断欠勤をするなど、普通に考えてありえない。
 つまりそれは何か普通ではないことが起こっているのでは、と悟ったアンリは気が気でなかった。もともと勘が当たりやすい方ではあったから。

「キャンベルさん、来ませんね」
「携帯は?」
「繋がらないみたいです」

 一番若い青年がおどおどしながら話かけてくる。
 アンリからも電話をしてみたが、つながる気配はない。何コールかした後に「ただ今電話に出ることができません」と無機質なオペレーターの声がエリスの不在を告げる。
 電源が入っていないのではなく、電話に出られない。昨夜エリスが遠回しに皇族の批判をしていたことが思い起こされ、脳裏によぎった皇族からの暗殺という可能性をかき消すように頭を振った。


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