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ep.05[Expand]

 ノワールの者たちにお礼と別れを告げて、ロステの6番街へ向かう。ライラの居場所はノイズが知っているはずだった。ロステ地区はもう少し北地方に近いところだから、降りた駅からまたさらに電車に乗って、目的地へと急ぐ。

「ねえ」

 手持無沙汰に車内の電光掲示板を眺めていたノイズが訊ねる。

「法制局の議長って、そう簡単になれるもんなの?」
「いや、そんなはずはない、と思うんだけどな」ノイズの目線の先を村長は追って続ける。「ここ数年で国保部もシステムが変わってな、機関の最上官、副官は皇族が直接指名するようになったんだ。まったく何を考えているのやら・・・・・・」

 いぶかしげに情勢を話す村長。話を静かに聞いていたトロイは村長を軽く突いた。村長は「いて」と声をあげると不満げにトロイを見たが、当の本人はすました顔で耳打ちをする。

「そんなことばかり言ってると謀反で捕まりますよ」
「それはやだなあ・・・・・・弟に笑われちまう」

 しばらくして車内アナウンスがロステ1番街に着いたことを告げた。ここからは徒歩で行った方が早い。改札を抜けて駅を出ると、ごった返す人ごみに押しつぶされそうになりながら、はぐれないように注意して6番街を目指す。高かった日もだいぶ落ちて辺りは薄暗くなってくる時間帯だろう。活気あふれる繁華街を冬の冷たい風が駆け抜けた。
 6番街に付く頃には、まだ5時だというのに薄暗く、日没とは反対の空にはぽつりぽつりと星が見えている。ノイズの記憶を頼りにライラのいるお店を訊ねる(風俗というだけあって訪問するのにとても抵抗感があった)と、眠そうに大きくあくびをするライラが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、ユージンなら奥で我が物顔でくつろいでるわ」

 通された部屋は少し散らかった、味気のない部屋。そこのソファーにひじ掛けをまくら代わりにして、堂々と寝転がりながら携帯をいじっている男がいた。20代前半ぐらいに見える男は、逆さまにトロイたちの姿を認めるとだるそうに口を開いた。

「なーんや、もう来たの」

 電話の向こうと同じ声。ユージンはひょいとソファーから起き上がって三人へと近づく。見定めるようにそれぞれの顔をじっと見たかと思うと「ほな、よろしく」とトロイに手を差し出してきた。握手を求めているのだと気づいたトロイがその手を取ろうとすると、たちまち強い力で引っ張られて、よろけたトロイは必然的にユージンに寄りかかってしまう。
 とっさに「ごめん」と言いかけて、バランスを崩したのはユージンが急に引っ張ったのが悪いのだと気づくが、トロイが言葉を発する前にユージンが耳元で囁いた。

「あんた、注意力なさすぎ。もしボクが政府の手先で、手に毒針とか仕込んでたらとか思われへんの?」

 唖然とするトロイを置いて、ユージンは一人で話を進める。

「それはそうと、白玉くん、あんたミュータントにしては変わった匂いがするなあ。仲ようしてもらってるとある兄ちゃんも似たような匂いがするんやけど、もしかして珍しい能力とかもってたりするん?」

 さっきとは打って変わり、口角をあげていかにも楽しそうにする。異質な能力、といわれて心当たりがないわけではないが、相手の言っている「とある兄ちゃん」というのが誰のことを指すのかが気になった。

「……いいや、気のせいじゃないかな。それより、そのとある兄ちゃんって誰のこと?」
「知人やお客の情報を簡単に漏らすようじゃ情報屋は務まらへんで」

 やはり一筋縄ではいかないようだった。「まあ、そんなに気張らんと肩の力抜きな」とトロイの肩をぽんと叩く。そうして自分は一歩下がって、一同に自己紹介をした。

「や、先ほどはあいさつ代わりにちょっとからかってまって申し訳ない。改めて、ボクが情報屋のユージンや。皆仲ようしてや!」

 妙に胡散臭い西訛りのような言葉遣いでニコニコと話す。はたしてつかみにくい飄々とした彼を信用しても良いのだろうか、と一同は一気に不安になった。

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