[2] ep.05[Expand] 路地へ入り、どんどん人気のないところへ、細いレンガ敷きのゆるい坂を下って行く。まだそこまで寒くはないから凍ってはいないだろうけれど、湿っていたりするところは滑らないよう少し気をつけながら。坂を歩いて3分ぐらい、木製の黒い扉の前で村長は立ち止まる。5回ノックして「ルークだ、エレノーラ、いるか?」と、民家を尋ねるように声をかける。少しして、村長の実年齢とさほど変わらないだろう女性が出てきた。 「なんだい、急に訪ねてきて。あんたに貸す金はないよ」 「待った待った、違うんだ。話を聞いてくれ」 エレノーラらしき女性は兄弟が若干引いたような目線で見つめているのに気づいたのかバツが悪そうに、三人にとりあえず中に入るよう指示をした。 玄関を入ると二、三段階段があり、そこから申し訳程度の廊下が続いていた。突き当りの扉を開け中に入ると、そこは薄暗い感じの部屋だった半地下にあるのか、天井付近に細長い窓がついているだけで、あとは電球を模したオレンジ色の蛍光灯の光のみ。ノワールというだけあって、隠れ家らしい拠点にいささか男心をくすぐられる。 「で、わざわざ北の端っこから訪ねてきたんだ。何か用があってきたんだろう?」 「ああ、最近政府の動きがどうにも怪しいんだ。噂の件もあるし、何か情報交換でもできないかと思ってな」 「言っとくけど、アタシらはイノセンスに協力するつもりはないよ」 「協力してもらおうとは考えてないさ。ただ、同じ能力者として狩りの犠牲者を増やしたくはないだろう?」 世間に蔓延る数々の噂。中にはガセネタも誇張されたものも沢山あるのだが、やはり気になる噂だっていくつかある。真偽を確かめないことにはどうしようもないが、今はご覧の通り、どうすることもできていない。 「そうだな……ならばアタシらも知っている限りなら教えるつもりだ。」 「そういえば村長、政府が僕らを探しているという噂は、何か情報は入りましたか?」 「レオンは何も知らないってよ。けど……もしかしたら……」 シス・ブランシェ、と村長は先の言葉を押し殺す。おそらく村長は、彼なら知っているとでもいいたいのだろうが、シスに訊ねる事は砂漠で一粒の砂を見つけるほど絶望的だということは誰もが理解していた。以前ノイズから聞いた目撃情報によれば、シスという男は優しそうな好青年らしいが、また別の情報によれば彼の周辺では「氷の副長様」と恐れられているらしいとも耳にした。 「あら、幽霊くん、また会ったわね?」 「ノイズです」 「シス・ブランシェは殺せそう?」 村長とトロイはノイズを見る。エレノーラもノイズを見て、少し考えたあと口を開いた。 「そうだ、シスについての情報ならいくつか持っている」 「本当か!」 村長の食いつきを見て、仕方がないと言った風にひとつふたつと話し始める。 「彼のことを、ある者は優しい人と言い、ある者は狂ってるといい、またある者は儚げだと言う。人によって印象が二転三転する、彼はカメレオンのような男だ」 三人は落胆した。ただでさえよくわからない存在だというのに、印象が人によってまちまちだというのは、彼の力量や人柄の情報がないに等しい。 「ああ……そうか、ありがとう」 ミュータントとそうでないものを見分けられるという彼に、いったいどうやって一般人と偽り接近することができるだろう。全員がミュータントで構成されているイノセンスやノワールの組員だけでは、これ以上情報を得ることは困難だ。村長は眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。 [mokuji] [しおりを挟む] Copyright (C) 2015 あじさい色の創作ばこ All Rights Reserved. |