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ep.04[Sever]

 もうすぐ冬になる。外では風が木々を揺らしていて、ガラス越しに外気の冷たさが伝わってくる。一応マフラーも持っていこうかとクローゼットをあさる。
 トロイからの依頼を受けてから何週間かかかってしまったが、ようやく弟と食事の約束をつけることができた。それまで何度か連絡をしてはいたものの、先月末の事件の事後処理や研究棟との手続きで忙しかったらしくいつも断られていた。
 彼の仕事が終わるのを待って夜の駅前。寒空の下、自分とは似ても似つかない薄いブロンドヘアーの男を探す。治安局がいないかを注意深く確認するのも怠らず。

「ご無沙汰しとります」
「使い方がおかしい。連絡なら嫌というほどよこしてきたくせに」

 会って早々に文句を言われてしまった。

「……相変わらず若いな」

 レオンは自分より幾分も若く見えるルークに怪訝な視線を送る。実際二人はほとんど変わらない年齢なのだが、ルークの外見年齢ははおおよそ30歳といったところか。これでは兄弟というより親子と言ったほうが違和感はないだろう。

「そんなあんたは息子さんそっくりだ」
「容姿だけな。流されやすいところなんか母そっくりだ」
「目元とかお前にそっくりだぞ」

 レオンは特に何も言わなかった。それから二人は特に会話も交わさず予約していた高級レストランへと足を進める。20の時に追い出されるように家を出たことで現在一般市民の身であるルークにとっては多少負担がかかるが、我儘で気難しいレオンに合わせなければ気を損ねて何も聞き出せなくなってしまうだろう。
 静かにドアを開けると、給仕が丁寧にお辞儀をする。ドレスコードが指定されるようなかしこまった店じゃないところを選んでくれたのは、レオンの少しばかりの配慮なのだろうか。どちらにせよありがたかった。

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 窓際の二人掛けの席へと案内される。ルークは値段の控えめなものを頼んだ。

「いつまでそうやっている気だ?年をとった事を"隠蔽"し続けるなんてお前らしくもない」
「別に簡単なことさ。年は取りたくないものだね」

 ルークは自嘲するように笑う。
 運ばれてきた料理を丁寧に切っては口へ運ぶ。幼少のころ教えられたマナーでも、少しは残っているようで、いくつかは自然に行うことができたが、レオンに何度も注意をされた。堅苦しいマナーなんか気にしていたら満足に味わえないとこぼすとまた怒られた。甥っ子もこんな父親に育てられてさぞかし苦労しただろうと同情する。
 少しの沈黙ののち、レオンはより声を潜めて話を切り出した。

「……見つかるのも時間の問題だぞ」
「あんたの新しい部下は、ずいぶんと優秀らしいね」
「ああ、若いのに世渡りの方法をよく知っている」
「褒めてんのかそれ……」
「どっかの誰かさんと違って紅茶を入れるのも上手だ」

 話をそらされるどころか皮肉で返されてしまう。レオンのこれは昔から全く変わらない。彼の部下は苦労していないだろうか。

「次の狩りはいつだ」
「まだわからない。最終決定を出すのは中央だからな」
「何かわかったら教えてくれ」
「誰がするか」

 ナプキンで口元を拭いて立ち上がる。レオンに自分の分の代金を渡し、支払うのを外で待つ。

「たまには兄弟水入らずでディナーを楽しむのもいいな」
「お前はもうフェレール家の人間ではない。せいぜい生き延びろ、クソ兄貴」

 別れ際、レオンはルークに向かってまた一つ悪態をついた。

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