[5] ep.04[Sever] 読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋。東国にはこんな言葉があると去年雅から聞いた気がする。なんでもかんでも秋とつけて、勝手にその季節の風物詩にされてしまうからたまったものじゃない。雅の部屋は年中本が散らかっているし、村長だって年中おいしいご飯を作る。男の一人暮らしに料理は必要最低限の家事だと言っていたが、一人暮らしをやたら強調していたあたり、また猫か何かをこっそり飼っているのだろう。 暦の上ではまだ秋だ。けれども、この間の雨のせいでこの頃すっかり冷え込んでしまい、トロイは急いでしまっていた毛布を引きずり出した。またどんどん冬が近づいてくる。 いつものように、手伝いをするためにバーへ向かうときに、一つ用事を思い出して雅を訪ねてみたが、留守だった。焔もユウナも、今は高校に行っていて居ない。平日の昼間は学生の仲間達がいないため、村はどこか閑散としていて物寂しげに見える。いや、寂しいのはトロイだろうけれど。 バーへ行くと村長は手持無沙汰にタブレットをいじっている。どうやらネットニュースの記事を読んでいるようだ。 「村長、何読んでるんです?」 「ウィークリーだよ、都市部の……トロイお前さ、知ってる?研究棟がトロイと雅のことを探してるって」 「どうして」 「さあな」 あくまで噂のようだった。俗世の与太話の類にはほとんど興味を示さない村長が珍しくそんな話を口にするのは、噂といえど油断ができないからだろう。イノセンスの若者たちを子供と呼んで愛している村長の態度がうかがえる。 「でもそれだったら、雅やばいんじゃないの。彼、北の副長にやけに執着しているみたいだけど」 「そうだな。じゃあこんな話は知っているか?」 村長は声をひそめて内緒話をするように訊ねた。 「ユウナが国保の奴と連絡を取っているらしい」 「情報の出所は?」 「匿名だ。同居をしているトロイに、ユウナの動向の監視をしてほしい」 トロイは静かにうなずいた。 この頃世間では政府に関する根も葉もないうわさが飛び交っていて、正しい情報を見極めることは今の段階では極めて難しいことといえるだろう。それに、政府が自分を探していると言うことに心当たりが無いわけではなかった。でもそれがもし本当なのだとしたら……ノイズが西で聞いたといういくつかの噂も辻褄が合ってしまう。それはとても信じ難い、恐ろしい話だ。 「そういえば村長、政府に兄弟がいるって前言ってましたよね」 「そんなこといったっけか?まあいるけど」 村長は気の抜けたような返事をした。雅に頼もうとしていたことは、別に彼でなくてもよくて外とのつながりがある人ならば誰でもよかったから、ついでに村長にお願いしてみることにした。 「どんな些細なのでもいいから、次の狩りに関する情報を何か聞き出せないかな……それから、最近の噂の審議とか。ほら、さっきの、政府が僕らを探しているという情報とかさ」 「う〜ん……あいつもなかなか気難しい奴だからなぁ……まあ、可愛い子供のお願いとあっては頑張ってみるしかないかな」 「ありがとうございます」 正直、弟との仲があまり良くないと言っていた村長が二つ返事で了承してくれるとは思っていなかったけれど、はいと言ったことに変わりはない。あとは村長がどんな情報を掴んでくるかによってまた状況は大きく変わるだろう。雅が帰ってきたら、放浪癖のある彼にはまた別の仕事をお願いしよう、とトロイは考えた。 [mokuji] [しおりを挟む] Copyright (C) 2015 あじさい色の創作ばこ All Rights Reserved. |