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ep.04[Sever]

 そうして来たのは少し小洒落たバー。

「悪いな、庶民はこのくらいが限界だ。高級レストランとかじゃないのは勘弁な」
「何を今更」

 聞いたところ、ヨハネスの行きつけのお店であり、またこれが意外と美味しいのだという。カウンターに案内されて、アンリには少し高い椅子に座る。ヨハネスは足を床につけているので悔しい。

「肝心の一人いねえけど出世祝いだ、乾杯!」

 ヨハネスは奮発したのか、少し高めのワインを飲んでいる。チャラチャラしたその姿はどうも似つかわしくない。アンリの前で見栄でも張っているつもりなのか。
 しばらく会っていない間、お互いのプライベートのことやら、仕事のことやら他愛もない世間話をしたりした。ヨハネスに「早く結婚しろ」と茶化されたが、アンリは「お互い様だ」などと返したりして、馬鹿みたいに笑っていた。法制局のアンリと研究棟のヨハネス。同じ国保部にいても仕事では全くかかわることはない。普段お互いが何をやっているのか、また仕事への愚痴など、普段話すこと知ることのないことをたくさん語った。

 アルコールもそこそこ入ってきたところでアンリの携帯が鳴る。着信相手は高校時代に最も恐れていた知人、レティだった。彼女が一般市民だったのならばそこまで気を使う必要はなかったのだが、なにしろ彼女も貴族家の生まれである。昔ほど貴族の権力はないものの、やはり貴族同士の微妙な軋轢は確かに存在していた。

「電話だ。すまない、席を外す」

 ヨハネスに一言断りを入れて外に出る。着信に応答すれば聞きなれたレティの声が聞こえてきた。

『男二人で、デートかしら?』
「馬鹿言え、俺はそっちの気はない。で、何の用だ」
『尾行されてるみたいだから、気を付けたほうがいいわ。』
「お前か?」

 電話越しにレティの笑う声が聞こえる。

『私はあなたの尾行を尾行しているだけ……まあ、くれぐれも研究棟の職員には気をつけなさい』

 そう言って電話は切れてしまった。結局レティは意味の分からない忠告をしてきただけだった。
 アンリが席に戻ると、ヨハネスはお酒があまり得意ではないアンリのために、アルコールの弱いカクテルを注文してくれた。

「おう、お帰り。誰からだ?」
「昔の知人だよ。大した用じゃない」
「そうか、まあ飲めよ。」

 とてもきれいな色をしたカクテルの果汁の甘酸っぱさが口に広がる。香りも良い。これならお酒に強くないアンリでも軽く飲める。はずなのに、急に酔いが回ったのか頭がくらくらしだした。思考回路もいつものような切れを発揮せず、頭の中は真っ白だった。
 先程レティから忠告を受けたばかりなのに、友人だからと勝手に信用して、出されたカクテルを不用心に飲んだのが悪かった。どうやら睡眠剤が混ぜられていたらしい。

「すまねえな、アンリ」

 薄れゆく意識の中でかすかにヨハネスの声がした。

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