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ep.04[Sever]

 この後の予定は、三時半から詐欺事件の初公判、四時から弁護士と会って、夜は久しぶりに会う友人と食事をすることになっている。普段はエリスが執事か秘書のようにスケジュールを勝手に管理してくれるので、たまに自分でも確認する癖をつけないと、エリスがいないときに困ってしまう。几帳面だなんだといわれるアンリだが、見かけほど几帳面な性格はしておらず、割とルーズなところもあるのだ。
 ディナーを誘ってくれた友人は、「できればまた昔みたいに三人で集まって出世祝いに飲み会でもしたい」と言っていた。しかしユイットのほうはそれが簡単にはいかないらしく、結局三人の予定を合わせることができないままとりあえず今日のところは、アンリとヨハネス、二人で夕食にしようということになった。繁華街にいい年した男が二人、どうにも花がない。ユイットは大学生のころから付き合っている彼女がいるが、二人ともあいにくフリーである。
 なんとなく椅子から立ち上がるのが億劫だったアンリは、エリスに一つ頼みごとをしてみる。

「エリス、そこの一番上にある資料を取ってくれ」
「届かないんですか」
「届く」
「かわいいですね」
「うるせえ届く」

 しかし年上の余裕とでもいうのか、自分の身長がアンリより高いことを自慢したいのか。子供じみたからかい方で返されてしまう。アンリの身長はとりわけ低いわけではない。
 いつものようにそんな茶番を繰り広げていれば予定の時間が近づいてきた。クロークを纏い、首元のリボンをしっかり結んで支度をする。
 法廷に入ったとき、見覚えがある顔と目が合った。ハーフアップの薄いアッシュブロンドに、ピアスをいくつかつけた、ホストのような男。紛れもなくヨハネスだった。小さくひらひらと手を振るそいつを、ここが法廷でなければ殴り飛ばしているところだった。アンリは気づかないふりをして席に着いた。

 それから数時間後、アンリはヨハネスと駅で落ち合っていた。ひらひらと銀のブレスをつけた手を振っている。そいつの顔は妙に複雑な笑い顔で必死でにやけるのを抑えているのがわかる。アンリは嫌な予感しかしなかった。

「……待たせたか」
「いいや、早く来すぎた俺が悪い。……『今から質問をしますから答えてください』ね……くっくっく」

 ヨハネスが何を言いたいのかはわかる。わかるからこそ腹立たしかった。普段からやわらかい口調で話せとでもいうのだろう。アンリは相手にわかるようにわざと大きなため息をついてやった。当のヨハネスは拗ねた恋人に許しを請うように肩をすくめた。当然顔はにやけたままで反省しておらず、そもそもアンリはヨハネスの恋人ではない。ものの例えだということを理解しなければ、アンリはますます怒るだろう。

「っせえな、職務怠慢で上にチクってやる」
「正式な有給だよお嬢さん」

 舌打ちをするアンリとノリが軽いヨハネス。高校時代から何にも変わってはいない。当時はいつも一緒にいたのに大学はバラバラになり、気が付いたら30歳になってしまっている。そうしてどんどん大人になっていくのだと嫌でも実感してしまうから、少しでも気を紛らわせるために今でもこうして仲良し三人で集まっているのだった。

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