Sky is the limit! | ナノ
「え、今日で合宿終わりなんですか?」
「せやで。オサムちゃんから聞いてへんの?」
「知りませんでした」
朝、いつもより少し早めに起きてしまったため散歩でもしようと外に出たら、丁度白石くんと出会った。他愛もない話をしながら建物の周りをのんびりと歩いてふと浮かんだ疑問、合宿はいつまでやるのか、と聞いたらまさかの返答である。オサム兄にあとで愚痴ろう。
「今日は何でも自由らしいで」
「練習はしないんですか?」
「出来たとしても午前中だけやからなぁ。午後にはバスでみんな帰るし」
「あ、そうなんですか」
「大阪まで結構距離あるさかいな」
「ああ、確かに」
なるほど、四天宝寺に合わせて午後に解散となったわけか。跡部くんなら一日中やって夜中とかに帰らせそうとか思ってたんだけど、なんか跡部くんに申し訳なくなってきた。ごめんね。
「白石ー!」
「あ、謙也やないか。どないしんたん?」
「もう飯の時間やで。あ、梓おはよう」
「おはよう、謙也くん」
少しの散歩のつもりが結構時間が経っていたらしい。三人で少し小走りで食堂に行けばすでにほとんどのメンバーが座っている。白石くんと謙也くんが一緒に食べようと誘ってくれたが、こちらを笑顔で見ている幸村くんが怖くて断り、立海の方へと足を向ける。
「おはよう、梓ちゃん」
「・・・おはようございます、幸村くん」
どうしてだろうか。こんなにも幸村くんは笑顔なのに、冷や汗が出てきそうだ。幸村くんと柳くんの間の席に座れば、口々におはようと声を掛けられる。それに私もおはようと返すのだが、仁王くんと目が合うとにやりと笑われる。
「やっぱそっちの方が良いのう」
「・・・」
ニタニタと笑う仁王くんがはっきり見えるのが少々むかつく。キッと睨むと、プリッ、とだけ呟いて(鳴いて?)視線を逸らす。どうしようもない感情が渦巻いていたが、朝食を食べればすっかりと忘れた。相変わらず食事が美味しくて最高です。この後は自由時間ということで、みんなは他校の人と話し始める。
「・・・暇だな」
まあみんな同じ部活でライバル同士だから話が盛り上がるのもわかる。私だってテニスの話は楽しいから。しかし、現在こんな大勢居る中で一人って・・・悲しくなってくるよ。部屋に帰って寝ようかな。あ、でも帰るときに置いてけぼりになったらとてもじゃないけど笑えない。
「アーン?こんな所で突っ立って何してんだ、梓」
「・・・えっと、なんでしょう?」
「なるほど、話し相手が居なかったってわけか」
声を掛けられたと思ったら相変わらず偉そうな態度の跡部くんが居ました。それから少しだけ思案するような表情をしたあと、何かを思いついたのか右手を上げて指パッチンをする。もちろんその音はみんなにも聞こえていたらしく、途端に静まり返る。
「お前ら!今から枕投げをするぞ!」
『・・・はあ?』
「枕を大量に持ってこい!」
「かしこまりました」
跡部くんの嬉々とした声とみんなの呆れたような声とメイドさんの少し笑いを含んだ声。なんて考えていたらすぐにドアが開き、大量の枕が部屋の中に入れられる。え、ちょっと待ってよ。本気で枕投げするの?普通やるなら夜じゃないの?
「ハーッハッハッハ!俺様の美技に酔いな!」
「ふふ、うるさいよ跡部」
「小春ぅ、危ないでぇ!」
「オラオラ、バーニング!」
「やんのかマムシぃ!」
「上等だゴラァ」
「んんーっ、絶頂(エクスタシー)!」
「ピヨッ」
跡部くんが枕を投げたと同時に始まった強制参加の枕投げ。さっきまでみんな呆れたような顔をしていたはずなのに今では楽しそうに枕を投げている。
「ええ、何この置いてけぼり感」
「ま、しゃーないっスわ」
「あ、財前くん」
「梓、危ないぞ」
グイッと手を後ろへと引かれたと思ったら、目の前を枕がもの凄い速さで飛び、見事財前くんの顔面へと吸い込まれた。顔から枕が取れた財前くんは、明らかに怒りながら枕を持ってどこかへ行ってしまう。
「大丈夫か?」
「うん。ありがとう、手塚くん」
「いや、気にするな」
後ろを振り返って見れば手塚くんが微笑んでいてくれた。が、次の瞬間に手塚くんの後頭部に枕が直撃し、手塚くんまでもが本気で枕投げに参加し始めた。私はなるべく隅っこに移動しようとして、枕を必死で避けていた切原くんにぶつかり、強制的に枕投げに参加する事になった。