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立海のみんなと一緒にご飯を食べて、私はそそくさと部屋に戻ろうとしたわけだ。

「俺様から逃げようなんて利口とは言えねーな。アーン?」

「・・・そうですね」

もう少しで食堂から出られるってところで、肩をがっしりとつかまれると同時に耳元で跡部くんの声がする。もうやだね、泣きたいよ私は。

「跡部、梓ちゃんに何してるんだい?」

「幸村くん・・・!助けて!」

「アーン?俺様はコイツの前髪を切ってやろうと思ってるだけだ」

「ああ、それは良い案だね」

あっさりと幸村くんは跡部くん側についてしまった。誰か助けてくれないかと食堂の中を見渡したら、ばっちりとジャッカルと目が合った。きっといつも苦労しているジャッカルくんならわかって助けてくれるはず、なんて期待の篭った目で見たらスッと逸らされる。そりゃないよジャッカルくん・・・!

「ほら、早く座れ」

「え、跡部くんが切るの?」

「アーン?当たり前だろ」

「・・・つかぬ事をお聞きしますが、誰かの髪切った事ある?」

「ねぇな」

何そんな当たり前の事聞いてんだよって目で跡部くんに見られた。というか、なんか跡部くんがちょっぴり楽しそうなのは未だ体験した事がないことを出来るから?しかしそれは非情に困る。もしも、だ。跡部くんが失敗なんてしたら私の前髪はどうなるんだ。ぐるぐると思考をめぐらせている内に、なぜかイスに座らせられていた。

「じゃあ始めるぜ」

「待ちんしゃい」

シャキシャキとスキハサミを弄びながら近づけてきた跡部くんの手を止めたのは仁王くんだった。

「アーン?なんだよ、仁王」

「良いか跡部、女子は髪が命なんじゃ」

「それくらい俺様だって知ってる」

「もしも跡部がミスしてみんしゃい。・・・梓に嫌われるぜよ」

えっと・・・なんだろう本人が置き去りにされてる感じがするんですが。そして仁王くん、跡部くんは私なんかに好かれたくはないと思うよ。しかし意外にも跡部くんには効いたらしく、どうしたら良い、と仁王くんに詰め寄っている。

「俺が切っちゃるきに」

ニタリと笑った仁王くんは跡部くんからスルリとハサミを抜き取り、私の前に立つ。

「俺は姉貴のをたまに切っちょるから安心じゃき」

「いや、別に私の前髪とか切らなくても良いです」

「ククッ・・・なんで敬語なんじゃ。まあ、もう遅いぜよ」

シャキン、とハサミの音がして、前髪がパラリと落ちた。思わず叫びそうになったところで、動くと危ないきに、と仁王くんが言ったので留まった。迷いのない手で仁王くんは前髪をどんどん切り進めていく。ああ、さよなら私の前髪。今までありがとう・・・!グッと目を瞑って耐えていたら、頭を軽く叩かれる。

「終わったなり」

「っ、」

目を開ければ今まで髪の毛で遮りながらだった光が直に当たる。徐々に光に慣れつつ目を開ければ、合宿に参加しているであろう全員が私の方を見ている。悲鳴を上げそうになったものの、心の内に留める。

「似合ってるじゃんかよぃ!」

「うん、悪くありませんね」

「ふむ、梓はそっちの方が良いな」

「あ、目が緑だCー!」

「ホントだ。綺麗ですね」

「ふん、まあまあじゃねーの」

口々に感想を言ってくれるのだが、何分こんな待遇は始めてといっても過言ではないので若干照れるのだが。ふと仁王先輩を見ると、口元だけが笑っていた。

「・・・ありがとうございます」

みんなの声に消えるかと思った私の言葉は、ちゃんと全員に聞かれたようで。食堂には、どういたしまして、と大きく響いた。

  

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