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「お疲れ様っス」

「越前くんこそ」

まだ肩で息をする私に対して、越前くんはケロリとした表情でラケットを肩に担いでいる。試合の結果は、当たり前だけど僅差で私が負けた。そりゃ昔は強いなんて言われてても結局はずっと努力を続けていた越前くんに勝てるわけなんてありえない。まあ私に出来る限りの事はやったわけだし、悔いはない。

「お疲れさん。ほい、ドリンク」

「あ、白石くん。ありがとう」

両手にドリンクを持ってきた白石くんは一つを私に、もう一つを越前くんに渡す。カラカラになった喉にドリンクを流し込めば火照った体から熱がスゥッと引いていく。最後の一滴まで飲み干してしまい、やっと一息吐いた。

「それにしてもホンマすごい試合やったなぁ」

「越前くんがすごかっただけですよ」

「そぎゃんことなかよ。梓もすごかったばい」

「ちょ、千歳くん!」

ものすごい汗の私を背後からのしかかるようにして抱きついてきた千歳くん。例えいつも部活をしていて汗のニオイになれているからといっても、一応私だって女なわけで、恥ずかしさがないはずがない。千歳くんが離れてくれるように体を横に動かしながら、離して下さい、と叫べば渋々といった様子で離れてくれる。

「・・・梓は俺に触られるのが嫌?」

「え、」

もしも千歳くんに犬の耳と尻尾があればあからさまにそれらは垂れ下がっていただろう。なんだろう、この微妙な罪悪感は。どうして良いのかわからずにチラリと白石くんに視線を移せば、苦笑いをしていた。

「すまんなぁ。千歳は可愛いものが好きなんや」

「はあ、」

「ところで、梓ちゃんのテニススタイルって・・・」

「へ?」

神妙な面持ちで聞いてくる白石くんに思わず間抜けな声が出る。それを見た千歳くんがまたのしかかってきそう(抱きつくとかそういう可愛いものじゃない)なのを避ける。

「えっと、私のテニスと言えば・・・そうだね、基本のテニス?あと相手の技とかを見て、コピーするとか」

「お、やっぱりや」

「?」

「俺も基本に忠実なプレイスタイルやからな」

「・・・なるほど」

そういわれてみれば練習の時など横目でしか見ていなかったが白石くんのテニスはどこか私に似たものがあったような気がする。

「オサムちゃんにも言われとったしな」

「オサム兄に?」

「おん。梓ちゃんの試合は見とれよって。その通りやったわ」

おおきに、と白石くんは笑って私の頭を撫でる。別に私は何かをしたわけでもないのに、少しだけ心がぽかぽかとする。思わず上がった口元に白石くんが驚いたような顔をしたが、次の瞬間に急激に重みを感じた背中によって思考を中断する。

「俺も構ってほしいばい」

「・・・」

思わず子供か、と突っ込みそうになったけど心の内に留めた私は偉いと思う。なんていうか、千歳くんはこういう人だっただろうか。

「・・・重いです」

「ん?」

「・・・」

絶対聞こえていたはずなのにも関わらずあたかも聞こえないわからないといった表情をした千歳くんには、何を言っても無駄だと悟りました。

  

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