Sky is the limit! | ナノ
幸村くん達が去ってから、仁王くんの部屋の前で呆然と立っていたら「渡邊様?」と声がする。意識を集中させ、視線を定めればここのメイドさんであろう人が居る。
「あ、どうも」
「風邪薬をお持ちしたのですが」
「あー、ありがとうございます」
「いえ、早く元気になると良いですね」
「・・・そうですね」
失礼します、と一礼をしてメイドさんはどこかへ行ってしまった。手渡されたペッドボトルの水は普通に市販の奴だったが、風邪薬は薬局などでは見かけたこともない高そうな箱をしている。仁王くんに飲ませるかと思ったが、マスクがないことに気が付いた。
「・・・まあ、大丈夫だよね」
あとで跡部くんにマスクの事も話そうと決めて、一応部屋のドアをノックしてから開ける。ゆっくりとドアを開けて、なるべく音を立てないように部屋の中まで入れば、ベッドに横たわっている仁王くんと目が合う。
「・・・」
「・・・」
お互い無言で、仁王くんに至ってはなんでお前がここにいるんだというような視線を向けてくる。正直居たたまれない。とりあえず薬を飲ませる為にベッドの傍まで近寄る。
「・・・なんで梓が居るんじゃ」
「薬、飲める?」
「・・・」
「おーい、仁王くん?」
薬という単語を言った瞬間に仁王くんはそっぽを向いてしまった。再度呼びかけても返事がない。つまりアレか、薬飲みたくないってことか。
「仁王くん、薬嫌いなんですか」
「・・・そんなもんなくても平気じゃ」
小さく吐いた言葉は、まるで子供が拗ねているかのような駄々をこねているかのような声色だ。しかし私だって幸村くんや他の人たちから頼まれたのだからなるべく早く仁王くんには復活して練習に励んでもらいたい。うーむ、どうするか。
「・・・出ていきんしゃい」
仁王くんの声は、空気に触れたら消えてしまいそうなくらいに小さかった。やっと視線を合わせてくれた仁王くんは、ものすごく眉間にしわが寄っていた。
「仁王くんが薬を飲んだら出て行くけど」
「・・・飲まんと言っとろうが」
「じゃあ私も出て行かない」
「・・・」
「・・・」
お互いにらみ合うような形になり、視線を逸らさない。何十秒そうしていたかはわからないが、仁王くんは諦めたのかゆっくりと上体を起き上がらせる。未だ気だるそうだ。
「はい、薬」
「・・・」
「飲まないと練習に出るのが遅くなるだけだよ」
「・・・わかっとる」
「じゃあ、それ飲んで後は寝てて。また様子見に来るから」
ペットボトルに入った水と風邪薬を渡しながら言えば、仁王くんは少し驚いたように目を開いた。
「おまん、俺が飲むのを見ていかんのか?」
「・・・薬飲む姿なんてあんま見られたくないでしょ?」
「そうじゃが・・・」
「じゃあ、ちゃんと飲んでよ」
「・・・おう」
それだけ伝え終わると、私は部屋を出る。きっと仁王くんなら嫌々ながらも薬はちゃんと飲むだろう。さて、私も早めに休むとしようかな。
「あ、宿題取りに行かないと」
食堂には広げっぱなしの宿題が置かれているはずだから、部屋に戻ろうとしていた足を止め食堂へと向かった。