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いつもより少し早足で食堂を出て仁王くんの部屋に向かおうとしたら、オサム兄に話しかけられる。

「どないしたんや?」

「あー、仁王くんが熱を出したみたい」

「!そりゃ大変やな」

「ちょっと様子見てくるね」

「おん。あ、ちゃんとマスクつけるんやで!」

「うん」

食堂を出れば中からどうしたんだ?などの会話が聞こえてくるが、私は足早にその場を立ち去る。仁王くんの部屋の前が見える場所まで来れば、立海のメンバーがそこに立っている。中に入ろうとする様子もなければ、ただ沈黙が流れるだけ。

「・・・どうかしたんですか?」

「あ、梓さん。薬の方は・・・」

「跡部くんが準備してくれるみたいです」

「それは良かった」

ホッと胸を撫で下ろしたのは柳生くんで、まあダブルスのペアだから心配ぐらいするのだろう。しかし全員、なぜこんな廊下に突っ立っているのか。

「中には入らないんですか?」

「・・・俺たちまで風邪を引くわけにはいかないだろう?」

「そうですけど、」

「だから、梓ちゃんに頼みがあるんだ」

「頼み・・・?」

そう言った幸村くんの顔を見れば、今まで(といってもここ数日だが)見たことのないような真剣な顔をしている。思わずごくりと生唾を飲み込めば、ゆっくりと幸村くんの口が動く。

「梓ちゃんが暇な時で良いから、仁王の様子を見に来てくれないかな?」

「・・・私は構いません」

「そっか。ありがとう」

安堵したように幸村くんが笑うと、周りのメンバーもありがとうと言いながら笑う。それからすぐに、幸村くんの「明日の打ち合わせをするよ」と言う言葉でその場にいたメンバーはぞろぞろと移動する。最後に幸村くんも行こうとしていたのを、名前を呼ぶと全員が足を止めて振り返る。

「なにかな、梓ちゃん?」

「・・・幸村くんは、心配じゃないんですか?」

「仁王のことかい?」

「そうです。仲間でしょう?」

そう聞けば、苦笑いをしながら幸村くんは私の方へと近づいてきた。

「そうだね、心配はしてないよ」

「・・・」

「ううん、本当はみんな心配してるけど、それ以上に仁王の事を信頼してるからね」

「・・・信頼?」

「そう。仁王だったら、仲間だったら大丈夫だって思ってるからね。でもまあ、梓ちゃんが様子を見てくれるだけで俺たちはもっと安心するんだ。だから、ありがとう」

一度だけ頭の上に手を乗せてから、幸村くんは微笑んで少し先にいるみんなの元へ歩く。その際にみんなの顔を見れば、みんな笑顔だった。

  

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