Sky is the limit! | ナノ

 

「梓ちゃん、悪いけど財前呼んで来てくれへん?」

そう白石くんに笑顔で言われたのは数分前の話。なんでも財前くんがイメトレしてくると言ってコートを去ってから結構時間が経ってるらしい。まあイメトレしてたら時間が経つのをあまり考えないから仕方ないと思うが、とりあえず暇なので引き受けた。そして現在、引き受けたことを早くも後悔しそうである。
ゴツイヘッドフォンをしながら、財前くんはコート近くの木陰からみんなの練習を見ていた。どうりで建物の裏とか中とか探しても居なかったわけだ。しかもコートからは死角になってるし。どうやって話しかけようかと一歩を踏み出したら、バキッと足元にあった木の枝が音を立て、財前くんが振り返った。眉間に思いっきりしわを寄せて。

「・・・」

「・・・」

お互い無言で見つめ合うなんて可愛いもんじゃなくて、財前くんからは若干殺気を感じる気がする。俺のところに来るなっていう感じの。しかし私だっていつまでもここに居るわけにはいかないのだ。

「・・・、白石くんが、呼んでたよ。イメトレが長いって」

「・・・で?」

「?」

「他にはなんもないんか?」

「ない、けど」

白石くんからの伝言は財前くんを連れて来るようにって事だけだったと記憶している。しかし財前くんの目つきは更に鋭くなって、視線で人が殺せるんじゃないかな、なんて他人事のように考えた。

「アンタもどうせミーハーなんやろ?」

「・・はい?」

いきなり何を真剣に言い出すかと思えば、私がミーハーだって。笑えるわー。

「ぶっちゃけていい?」

「は?」

「私ね、そういう偏った考えの奴って嫌い。つまりは自分がかっこいいって言いたいわけでしょ?ナルシストかよってんだ。別に私は男に困ってるわけでもないし、今の生活で満足してるし。そうだね、もし私に気に入られたいならもっと性格磨けば?」

ズバズバと思ったことを口にしていけば、財前くんの目はこれまで以上に見開かれた。おおう、ちょっと怖いぞ。唖然としてる財前くんから視線を少しずらしてコートを見れば、白石くんと目が合って微笑まれた。あれか、私だってそんな勘が悪いわけじゃない。つまり、白石くんにはめられたってわけか。

「クッ、」

声を押し殺すようにして笑い出した財前くん。この場を離れて白石くんに文句言いに行こうと思ったら、財前くんが顔を上げた。

「・・・、梓のこと、誤解しとったわ。すんません」

「あ、いや、私こそ、ごめん」

お互い謝って、なんだか変な空気になったのでコートに戻る事にした。とりあえず、誰か白石くんを殴る権利をください。


  

- ナノ -