Sky is the limit! | ナノ
何度もドリンクとタオルを持って往復した。額から頬、頬から首筋へと伝わる汗が嫌で、バシャバシャと温い水道水で顔を洗う。別に走ったりしたわけじゃないが、こんな炎天下の中歩き回っていれば汗も出るわけで。
「ふー・・・」
持ってきておいたタオルで顔を拭けば先程よりかは幾分かスッキリとした。これからどうしようかと頭を巡らせたが、ドリンクもタオルもある程度運んでおいたから一時は大丈夫だろう。ゆっくりとした足取りで誰かが居るテニスコートへと向かう。
遠くてよく見えなかった人物が見えてきて、あれは確か・・・不二くん・・だったはず。あの目でちゃんとボール見えてるのかな?
なんて失礼な事を考えていたら不二くんがこちらを向き薄っすらと目を開いた。思わずビクッと肩を竦ませたら、クスリと笑われる。
「僕と試合でもしてくれるのかな?」
「ははは・・・まさか」
「なんだ、期待してたのに」
終始笑顔で対応されてぶっちゃけ怖いんですけど。
「不二不二ー、お待たせーって・・・あれ?」
「英二、遅いよ」
「ごめんごめん。それより!えーっと、梓ちゃん?だっけ?」
「はぁ、そうですけど」
不二くんしか居なかったテニスコートに現れたのは、菊丸くん。・・たぶん。なぜか目が輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
「俺達の練習に付き合ってくれるの!?」
ニコニコと眩しいほどの笑顔を振りまいている菊丸くん。不二くんは可笑しそうにクスクスと小さく笑っている。ちくしょう。
「英二もたまには良いこと言うね」
「たまにはって余計でしょ!」
「どうでもいいけど私やらないから」
「ええっ!」
「・・・」
心底驚いたような表情をする菊丸くんと、少しだけ目が開かれた不二くん。不二くんの迫力がありすぎて思わず視線を逸らす。だって、なんか威圧感が凄い。
「むー、仕方ないにゃ。不二!練習しよー!」
「うん、そうだね」
菊丸くんはラケットをクルクルと手首で回しながらコートに入り、不二くんも笑顔でコートに入っていった。私も近くの木陰に移動して、二人の練習を見ることにする。菊丸くんのサーブから始まりラリーが続く。というか語尾が“にゃ”って・・・ちょっとだけ引いたとか、心の内に秘めておこう。
「それにしても・・・アクロバティックすぎるだろう」
ぴょんぴょんとコート上を動き回る菊丸くんに対して、不二くんは落ち着いている。次第に菊丸くんが二人に見えなくも無い。ってかなんか二人以上居るような気がしなくもない。
「暑さのせいか・・・」
ごしごしと目を擦れば先程の(恐らくきっと)幻は消えていて、菊丸くんのスピードがやや落ちているような気がする。
「菊丸くーん」
「、なに!?」
「もうちょっと体力つけようよ」
「・・・分かってるよー」
ラリーを続けながら喋る菊丸くんは大変そうだ。それに体力が無いのも自覚済みなのか。まぁ体力つけるのも時間掛かるしね。
「まぁ、頑張ってー」
「僕には何もないのかい?」
不二くんが笑顔で聞いてきたが、笑顔を見せれるくらいなら一生懸命練習に取り組めよ、なんて言えるわけもなくて、コートに背を向けて歩き出した。・・・あとで何か言われたらどうしようか。