Sky is the limit! | ナノ
テニスコートの周りには合宿に参加している全員が集まっていた。
「白石、梓ちゃんをよぉ見とき。勉強になるで」
「…おん」
切原のサーブから始まり、最初は普通のラリーだと思った。普通に考えて女の子が男…ましてや立海のレギュラーの彼に勝てるわけがないと。
「…手塚ゾーンや」
隣で見ていた謙也が俺に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。確かによく見れば、梓ちゃんはあの場所から一歩も動いてない。
「ホンマかいな…」
手塚ゾーンを駆使して、切原を左右に揺さぶって体力を削る。次第に切原の息が上がっていき、目が赤くなっていく。ヤバいんちゃう、と思った時には梓ちゃんの腕にボールが当たった。
「君は、テニスで人を傷つけるの?」
「あ゙?」
「…ムカツク。君にも同じ事してあげようか?」
にこりと笑って、試合が再開された。サーブはまた切原に与えて。梓ちゃんを見たら、ものすごく冷めた目をしていた。ゾクリと背筋が凍るような瞳。ボールを打つインパクト音が聞こえたと思ったら、梓ちゃんの顔目掛けてボールが跳ねる。
「っ、危な…!」
危ないと叫ぼうとしたときには、すでにボールは切原に当たっていた。
「っ!」
「痛い?まだ半分の力も出してないんだけどなぁ」
クスクスと笑う梓ちゃんだが、切原の腕にはハッキリとボールの痕がついていた。
「嘘やろ」
謙也が呟いたけど、俺はテニスコートから目が離せなくなっていた。止めないと切原がもっと怪我するというのに、声も出せなかった。ただ、淡々と切原にボールを打ち込む梓ちゃんが怖かった。
「梓ちゃん!そんくらいでええやろ」
「オサム兄…」
正気に戻ったような感じで、梓ちゃんは切原を見た。
「君、テニス楽しい?」
「なに、言ってんだよ」
「テニスはね、楽しまないと苦しいだけなの」
「……」
「まぁ、今回はごめんね。ちょっとイラついてて。またいつでも試合は受けるから」
「っ、」
「赤也、お前の負けだよ」
「女子に負けるなどたるんどる!」
「まぁまぁ、梓ちゃんに勝てないのは普通やで」
オサムちゃんの顔がニヤニヤと笑みを浮かべている。
「なんたって、梓ちゃんは“阿修羅”やしな」
「……は?」