隣のあの子が消えたらしい | ナノ
貯水タンクの上に居た人物に目を向ければ、逆光で思わず目を細めた。目が慣れるのなんてほんのわずかな時間があれば十分で、貯水タンクの上で微笑んでる和嶋を見つけた。
「和嶋!」
「っ、文香!」
「やっほ。サボりかい?」
おちゃらけた風に喋る。でも、確かにここに居るんだ。それが嬉しくて嬉しくて、気がつけば目から涙がボロボロと流れていた。
「ちょっ、どうした?!」
「文香が泣かせたなり」
「うるさい仁王先輩黙って。ごめん、私がなにかしたかな?」
「ちがっ、…っただ、うれし、」
途切れ途切れの言葉はちゃんと伝わったのか謎だったけど、和嶋はタンクの上から飛び降りて、俺の頭を撫でた。ガシガシと少し乱暴だったけど、それでも温もりがあった。
「いやぁ、まさか名前も知らない人に喜ばれるとは…」
「赤也、俺、切原 赤也!」
「切原くん?」
「赤也で良い。だから、俺も文香って名前で呼ぶ」
「んー、まぁ良いよ」
にへらと笑う文香に、ドキッと心臓が一跳ね。やっばい、今のヤバい!
「ところで、今日のは一体どういうことだ?」
核心をついたのはやはり柳先輩で、手元にはいつの間に取り出したのか、ノートが開かれていた。でも、俺も聞きたい。一体何が起こったのか。
「あぁ、実は私この世界の人間じゃなかったんだよね」
「…はぁ?!」
「“じゃなかった”というのは?」
「ちゃんと手続きしてきたってわけ」
「え、は?」
「だから、私前の世界で死んじゃって、新しい場所探してたの。昨日まではお試し期間」
衝撃の事実…てか、信じらんねぇような事が次々と口から話される。ぶっちゃけ、意味がわかんねぇけど……
「とりあえず、明日からも一緒に居られるんだろ?」
「うん、そうだよ!」
隣のあの子が消えたらしい。
end.
2011.05/23
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