隣のあの子が消えたらしい | ナノ


屋上の、更に人目につきにくい貯水タンクの裏に移動して、座った。心臓がバクバクと、全力疾走したあとのように激しく脈打つ。


「お前たちが異変に気づいたのはいつだ?」

「…俺は朝じゃったかのぅ。いつも朝練の時には屋上に文香の姿が見えるはずなんじゃが、今日は居らんかった」

「ふむ、なるほど。赤也はいつだ?」

「俺も今日の朝っス。クラスの男子に名前出しても、昨日まで知ってたはずなのに何も知らなくて。それで俺っ、意味わかんなくなって、和嶋のクラスの奴に聞いて…でも、誰も知らなくて…」

「参謀はいつ気がついたんじゃ?」

「俺は昨日の夜だ。妙な胸騒ぎがしてノートを開けてみると、和嶋 文香のところだけがキレイに消えていた」


――まるで、最初から存在しなかったかのように。
沈黙が辺りを漂って、俺の頭はパンク寸前のような気がした。いや、ただ現実を見たくなかっただけかもしれない。だって、存在しなかったってなんだよ。じゃあ俺らが見てた和嶋はなんなんだよ。意味が、わかんねぇ。


「――あぁ、くっそ!和嶋出てこいよ!」


訳がわからなくなって、つい叫んでしまった。別に近くにいるのは仁王先輩と柳先輩だけだし、と思ってたのに。


「名前も知らない人に怒鳴られるとは思ってもなかったなぁ」


凛とした、ソプラノの声が、頭上から聞こえた。



 

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