隣のあの子が消えたらしい | ナノ


俺には好きな子が居る。それは隣のクラスの和嶋 文香。初めて会ったのは先月の今日で、本当に偶然だった。

学校が終わったから帰ろうと廊下に出た時に、ぶつかった。それだけ。たったそれだけで、気づけばいつも視線の先には和嶋がいた。名前も知らない奴だったから、クラスの友達に「アイツ誰?」って聞けば「和嶋 文香…たしか転校生だったか?」と返された。名前を心の中で反復して、覚えた。名前を知ったら、今度はいろんなことが知りたくなった。誕生日はいつだとか、趣味はなんだとか。だから、柳先輩に聞いてみた。淡々と柳先輩の口からは和嶋の情報が出てきて、それだけで舞い上がった。


―――そして、今日。


いつものようにクラスの友達と喋っていると、なにか違和感を感じた。その時は大して気にしてなかったが、俺が和嶋 文香の名前を出すと、友達は「誰だ、そいつ」と。頭を鈍器で殴られたかのような錯覚がしたが、何かの冗談だと思った。違う男子に聞いても、和嶋と同じクラスだった奴に聞いても、誰も知らなかった。――まるで、最初から居なかったかのように。


「――何が、どうなってんだよ…!」


意味がわからなくなって、教室を飛び出した。向かう先は屋上。柳先輩から聞いた情報だと、和嶋は屋上でサボる事が多かったらしい。だから、少しくらい希望を持ったって良いだろ。




 

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