貧乏少女M | ナノ
今日はなんとなく、気分的に朝から柳生と入れ替わって練習をした。朝練が終わって、着替える前に水道で水を飲もうと思った。水道まで近づいていくと、水道に人影が見えた。制服がスカートだから女子なのは確実。
「・・・(面倒やのぅ)」
どうせファンの奴らだろうと思いながら水道に近づくと、ジャリッと音を立てたせいでその女が振り返った。思わず舌打ちをしそうになったけど、今は柳生の姿。
「すみません、退いてくれますか?」
「やぎゅ、おはよう!はい、どーぞ」
俺を柳生と勘違いしてるのは当たり前として、コイツ柳生の知り合いか?ただの勘違いだけにしては馴れ馴れしすぎる気がする。そんな事を考えながら、とりあえず水を飲んで顔をあげたら、まだそこに居た。
「なにか用ですか?」
「あのね、聞いてよ!昨日レンレンの家でね、ハンバーグ食べたんだ!」
「・・・は?」
マシンガントークをする女。意味がわからなすぎる。仕方ないから放って部室に戻ろうと思ったらそいつもついてくる始末。
「・・・(一体なんなんじゃ・・・)」
でも部室に入れるわけにもいかないし、どこかで撒かなければと思考をめぐらせていれば、丁度部室から柳生が出てきた。女はまだ柳生が出てきたことには気づいてないようで、さっきと変わらずずっと話し続けている。しかも昨日の晩飯について。
「おや、仁王君。早くしないと遅れますよ・・って、宮下さん?」
「うぇ?あれ?やぎゅが二人・・・?」
やっと柳生に気がついた女は意味が分からないといったように俺と柳生を交互に見た。が、それでも分からなかったのか首を盛大にかしげた。
「仁王君、変装を止めたまえ」
「プリッ」
「んん?こっちが、本物のやぎゅ?」
「えぇ、そうですよ。こちらは仁王君と言って私のパートナーです」
「ふーん」
ふーん、って・・・まさか俺のこと知らんのか?いやいや、流石にレギュラーぐらいは知ってるはずだろう。
「におー、やぎゅにそっくりで全然分かんなかった」
「そりゃどうも」
「宮下さん、行きましょうか」
「へいへいほー」
「待ちんしゃい」
「ぐえっ、」
俺の横を通り過ぎていこうとする女の襟首を捕まえれば、カエルが潰れたような声を出した。もっと女らしい声は出ないのか。
「俺は仁王 雅治じゃき。おまんは?」
「んー、宮下 友里。じゃあね、におー」
「友里、か。またの」
名前だけ言って、友里は柳生と歩いていった。微かに聞こえた話の内容はさっきまで俺に話していた晩飯の話だった。
「ククッ・・・面白い奴じゃ」
俺のことを知らなくて、柳生と親しげで。あとはあの“レンレン”って奴が気になるのぅ。
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