楽しければ全ておk | ナノ
長い長い一日の授業を終わらせるチャイムが鳴ったというのに、社会の先生はキリがいいところまで進めると言って気分はガタ落ち。廊下では早速SHRが終わったクラスがざわついている。あと何分掛かるんだろうかと時計を見た瞬間に、それじゃあここまで。と授業終了の声がした。
「起立。礼」
「ありがとうございましたー」
委員長の指示で挨拶を済ませると、途端にざわつく教室。帰る準備を始める人も居れば、友達とお喋りを始める人も居る。私は前者と同様、席に座りなおして机の中の教科書類を鞄の中へと放り込む。
「雑賀ー」
「んー?何さ切原」
名前を呼びながら振り返ってきたのは切原赤也。テニス部レギュラーで人気があるらしいが、私からしたらただのゲーム仲間だ。
「明日まじで良いの?」
「ああ、平気だよ。なに遠慮してるわけ?」
「いや、なんでもねぇ。じゃあ、明日な!」
「おー。部活がんばれー」
走っていく切原は片手を挙げて応えた。私も席を立って友達数人と挨拶を交わしながら教室を出て帰宅する。
今日は家に帰ったら何をしようかな。昨日は善哉Pの曲で自己解釈PV作ったんだっけ・・・どうなってるかな。
ポケットから携帯を取り出してワラ動に接続し、自分のワラレポを見てみる。
「えーっと・・・あ、ランキング入ってるや。ん?善哉P巡回済み、だと・・・!」
思わずにやけそうになる顔を必死に抑えて急ぎ足で家に帰る。というか解釈間違ってたら嫌だなー。でもまあ、苦情とかあるわけじゃないから良い・・・よね。うん、そうしよう。
「ただいまー」
「おかえり。帰ってきて早々悪いんだけど、お遣い頼まれてくれない?」
「ええー、今帰って来たばっかじゃん」
「好きなもの買って来ていいから」
「・・・仕方ないなぁ。あずま和菓子の所で良い?」
「うん。お願いね」
「はいよー」
持っていた通学鞄を玄関に放置して、制服のままあずま和菓子店に向かう。因みにあずま和菓子店は家の近所にある小さな和菓子屋さんだ。しかしここの大福が兎に角美味しくて美味しくて。近所の人しか知らない隠れた名店である。私の家からは片道5分くらいで、お母さんに握らされた5千円で、とりあえず買える分の和菓子を買う。
「奈緒ちゃんいつもありがとねぇ」
「いえいえ、私ここの大福すごく好きですから!」
「嬉しいわぁ」
ニコニコと笑うおばあちゃんが、ここの店主さん。お年寄りなんだけど、すごく可愛い。話しているだけで癒されるような気がする。お礼を言ってから家までの道のりを歩く。
「ただいまーって、あれ?」
玄関を開ければ先ほどは無かったはずの見慣れない靴が2足。一つは女性のもので、もう一つは男性のものだ。
「誰だろ?お母さーん、」
「あら、おかえり」
「まあ奈緒ちゃん?大きくなったわねー!」
「・・・えっと、」
リビングのドアを開ければお母さんと見知らぬ女性の人がこちらを見てきて、どうやら見知らぬ女性の人も私を知っているらしい。誰だろうか。
「忘れたの?私の妹よ」
「・・・ああ!お久しぶりです」
「ふふ、覚えてないのも無理ないわよね」
最後に会ったのは何歳の時だったかしら?なんてニコニコしながら喋っている叔母さん。買ってきた和菓子をキッチンへと持って行けば、お母さんも立ち上がってキッチンへと来る。
「こんなに買ったの?」
「うん。明日切原も来るし」
「あらそうだったの。早く着替えてきなさい」
「うーい」
階段へと足をかけたら、リビングからは二人の楽しそうな声が聞こえてくる。階段を上がりながらネクタイを緩めシャツのボタンも開けていく。だらしないと思うが、どうせ家には家族以外居ないし、これが当たり前になってしまった。あれ、そういえばもう1足靴ってあったような・・・トイレかな?ガチャリと部屋のドアを開けて、パタリと閉める。
「・・・・・あれ、おかしいな。私の部屋に見知らぬ男子が居たような気がするんだけど。ハハッ、ついに幻覚まで見始めちゃったかな?」
「なにしてるんっスか」
「・・・あー、え?」
きっと見間違いもしくは幻覚だと思って再度ドアを開けたら、ばっちりと目が合う。どうして見知らぬ男子が私の部屋に居るんだ・・・!しかも、彼の手にはスケブが握られて・・・スケブ?
「ぎゃあああああ!」
「・・・は?、ちょっ」
「みみみみ、見た!?」
スケブを勢いよく奪い取れば、見知らぬ男子は目をまん丸にして驚いている。が、そんな事知ったこっちゃない。重要なのはこの中を見たのか、見てないのかという事だけだ。出来れば見てませんように、なんて祈ってみたが、見知らぬ少年は当たり前だというように頷いた。
「・・・なあ、聞いてええ?」
「・・・ナンデショウ」
「アンタ、大福さん?」
まるで、時が止まったようだった。