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午後6時49分。外は真っ暗というほどでもないが、そこそこ暗い。思わず溜め息が出そうになるのを無理矢理押さえ込み、自分の靴箱を開けローファーを取り出す。何で帰宅部の私がこんな時間まで学校に残っているのかと言うと、先生に雑用を押し付けられたからである。しかも音楽室の掃除なんて私には無縁の事をだ。

「暗いなー、やだなー」

別に暗いのが怖いわけじゃないが、なんとなく物寂しさを感じる。鞄を持ち直して、いざ帰らんとすると目の前に見慣れた人物を発見。気づかれないように足音を立てないよう最善の注意をしつつ、少し強めにテニスバックの掛かってない右肩を叩いた。

「よっ!切原!」

「っ、雑賀!?おま、いきなり何すんだよ!てかこんな時間まで何してんだ?」

「聞いてくれたまえ切原よ・・・私は先生という悪魔のような奴に捕まってしまってな・・・今まで音楽室の掃除をさせられていたんだ」

と右手を額に添え左手は腕を組むような若干の中二臭漂うポーズを決めながら言ったら、背後から笑い声が聞こえてきた。そう、背後から。切原は私の目の前に居る。

「ちょ、赤也!コイツ誰だよぃ!超ウケる!」

笑いながら私の頭に手を乗せてグリグリと押し込んでくるのは赤い髪の人。誰だ。いや、テニスバック持ってるからテニス部なのは一目瞭然なんだけども。それより、

「・・・しにたい」

両手を顔に当てながらボソリと呟いた声が聞こえたのか、更に笑い出す赤い髪の人。もうやだこの人。

「丸井先輩、雑賀がまじで死にそうっス」

「へ?あぁ、悪ぃ!」

漸く笑いが収まったらしい丸井先輩とやらは頭に置いていた手で私の髪の毛をぐちゃぐちゃにする。それがやたら長かったような気がしたので、パッと手で振り払ったら驚いた顔をした丸井先輩と目が合う。

「・・・切原、この人」

「あー、部活の丸井先輩。丸井先輩、こっち同じクラスの雑賀っス」

「なになに、赤也の友達?」

「まあ、そんなもんですが」

「へー」

先ほどの笑いとは打って変わって今度はニヤニヤとした笑みを浮かべ私と切原を交互に見てくる。はっきり言って居心地が悪いったらありゃしない。思わず眉間にしわが寄るのが自分でもわかる。

「ふーん・・・友達、ねぇ・・・よし、じゃあ雑賀にもこれやるよ!」

丸井先輩が鞄から出したのは小さな包みに入れられたマフィン。横では切原が「俺にはないんっスか」なんて騒いでいるが、それよりもこのマフィン。どこかで見たことがあるような気がする。そう、つい最近・・・。

「食べてみろよ」

「・・・じゃあ、いただきます」

マフィンを取り出して口へ運ぶ。パクリと噛み付けば程よい甘みが口内に広がる。うん、

「美味しい、です」

「ふふん、天才的だろぃ?」

「はい、天才・・的・・・」

「雑賀?」

切原が私の名前を呼んだが、ぶっちゃけそれどころではない。え、え・・・あれ、?

「・・・丸井先輩、つかぬ事をお聞きしますが」

「おう、なんだ?」

「・・・・・・妙技師さん、ですか?」

「えっ」

「ワラ動に投稿してる、妙技師さんですか?」

もう一度聞けば、何故か切原が驚いた声をあげた。丸井先輩をジッと見ていれば、視線は定まらずあちこちに動き回り、私と合う。

「あー・・・まあ、なんだ。雑賀もワラ動とか見てるのか?」

「・・・私も、切原も、一応動画投稿者ですよ」

「え、赤也も!?」

ギョッとした顔で切原を見る丸井先輩。切原も戸惑いながら「そうっスけど」と返した。こうしてまた一人、ワラ厨仲間が増えたのであった。




「えっ、雑賀が大福!?・・・まじかよ・・・それに赤也がレッドとか・・・」

「まさか丸井先輩がワラ厨だとは思わなかったっス」

「いやぁ、妙技師さんに会えてマフィンも食べれたなんて超ラッキーだわ」

  

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