目には目を、歯には歯を | ナノ
折原?ああ、あのちょっと変わった奴だろ?そうだな・・・なんていうか、雰囲気が普通の奴らと違うんだよな。近寄りがたいって言うよりも、近寄っちゃいけない感じの人間って感じ。は?荻野さん?あー、仲良いよなあの二人。・・・俺が二人の関係なんて知ってるわけないじゃん。あ、呼ばれたからもう行くわ。
「折原日和だな」
移動教室の為に廊下をダラダラと歩いていたら、前方から目の開いてない奴が来て私の前で止まった。もちろんそのせいで私の歩行も止まるわけで、少なからずイラッとした。見ず知らずの奴に名前を呼ばれるのにも、だ。
「たとえ相手の名前を知っていたとしても、初対面の人間には自分から名乗るのが礼儀じゃないんですか」
「・・・そうだな。俺は柳蓮二。テニス部のレギュラーだ」
「折原日和。で?」
「お前に聞きたいことがいくつかある」
「答える義務はない」
テニス部というだけで先日のイライラが蘇ってくるというのに、謝りもせずに質問だなんて虫が良すぎると思わないのか。ああ、思わないのか。馬鹿だから。これだから人間は好きになれない。柳とかいう奴を無視して一歩を踏み出したところで、思いがけない名前が出てきた。
「荻野には許可を貰っている」
「・・・荻野先輩?」
「ああ」
なぜ荻野先輩がコイツなんかの言うことを許可したんだろうか。もしかして、私に飽きた?他に興味の対象が出来た?いやだなぁ、掃除しなくちゃいけなくなるや。ま、その事は昼休みにでも聞こう。
「とりあえず、謝罪してください」
「謝罪?」
「私は先日のあの件で不快な思いをしました。謝罪を」
「・・・あぁ、そういうことか。あれは本当にすまなかったな。それで、だ」
気持ちの入ってない言葉は謝罪とは言わないんじゃないだろうか。ノートを開き手にはシャーペンを持つ柳は、これまた淡々と質問をしてきた。
「なぜ香織を虐めた」
「さあ?身に覚えがありませんね」
「・・・じゃあ質問を変えよう。何故あんな人が多い廊下で香織を押したんだ」
「むしろ向こうからぶつかってきたんですけどね。自作自演なんじゃないですか?」
「香織はそんな事はしない」
「人間はいつどこで裏切られるかわかりませんよ?」
「俺たちは香織を信じている」
「・・・盲目的に、ですか?」
「・・・違う」
何が、という問いかけは止めておいた。何かを考え始めた風だったので、その場を立ち去る。今度は引き止められることはなかったが、丁度授業開始のチャイムが聞こえてきて、私はサボる為に中庭へ行く。
「あ、お弁当も持っていこう」
どうせ教室には誰も居ないし、今始まったのは4時間目。あと1時間でお昼になるから、荻野先輩が来るのを待とう。そして荻野先輩がなんで柳を許可したのか聞かないと。
別に私と話すのに荻野先輩の許可が要るというわけではないのだが、私は私にメリットのない話を聞くなんて優しさは持ち合わせていない。そんな事は荻野先輩も知っているのだから、気になるのだ。
「あぁ、早く授業終わらないかな」
芝生の上にごろりと寝転がって、目を閉じた。