目には目を、歯には歯を | ナノ

 
なんて事ない日だった。いつもと同じように起きて、いつもと同じように学校に行って。昼休みに、廊下で彼女とぶつかる前までは。

「キャァアアア!」

肩がぶつかったと思ったら、彼女は廊下に転び悲鳴を上げた。もちろん、ここには大勢の人が居るわけで(だって昼休みだし)。ざわつく廊下では、私と彼女を囲うように人が集まる。

「香織!」

突如現れたのは立海では有名なテニス部レギュラー達。あぁ、そういえば彼女は3年でテニス部のマネージャーだったような気がする。

「香織先輩に何したんっスか!」

「・・・」

「聞いてんのかよぃ!」

「・・・あぁ、私に喋ってんの?」

「他に誰が居ると思ってるんじゃ」

うわぁ、なんか嫌な奴らに絡まれた。ていうか、何この状況。チラリと彼女の方を見れば、私と目が合うなり過剰に反応して、それが更にテニス部に拍車をかける。

「テメェ、香織先輩に何の怨みがあるんだよ!」

「うわ、お前ワカメみてぇ」

「あ゙ぁ゙!?」

おっと、つい口が滑っちゃった。てへ。目の前の奴は彼女の事を先輩と言ってるから恐らく同級生か後輩なんだろう。2年にこんな奴居たっけ。全く、躾けがなってないねテニス部は。

「テッメェ・・・調子に乗ってんじゃねーぞ!」

「おっと、手が滑った」

ブンッと殴られそうになったのを避けて逆に平手打ちをする。パンッと小気味のいい音がして、廊下は静寂に包まれた。

「日和!」

「ん?あ、荻野先輩」

走ってきたのは荻野先輩で、息を切らしている。おお、息を切らすとか珍しい。

「荻野?・・・もしかして彼女は、ファンクラブの人なのかい?」

青い髪をした人が、キッと私を睨みながら荻野先輩に話しかける。あ、そういえば荻野先輩ってファンクラブの会長任されてるんだっけ?大変だよね、男なのに。しかもテニス部ってこんな馬鹿ばっかなわけ?荻野先輩かわいそう。

「日和はファンクラブじゃないよ」

「じゃあなんで香織に突っ掛かってるんだよぃ!」

煩い。非常に煩い。そしてお腹が空いた。私はこれからお昼を食べるところだったのに、こいつらのせいで気分は最悪だ。荻野先輩に癒してもらおう。
なんて考えてたら、背中に蹴りを喰らって前のめりになって転ぶ。

「・・・」

「ふん、良い気味じゃ」

「ぶはっ、マジうけるんだけど!ナイス仁王!」

どうやら蹴ったのは仁王という奴らしい。銀髪の奴、覚えた。

「あー・・・日和?」

「・・・なんですか、荻野先輩」

「・・・いや、もう何でもねぇわ。じゃ、飯でも食いに行くか」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられてから手を引かれてその場を離れさせようとしてくれる荻野先輩。やだ、かっこいい。

「ちょっと待て」

荻野先輩が握っている手とは反対側の腕をつかまれ、私の気分は最高潮に悪くなった。気持ち悪い、触るな。力一杯手を振り払えば、驚いた顔をした老け顔の奴が居た。

「なんなんだよ、てめーら。死にたいわけ?」

「なっ、なんだその言葉遣いは!たるんどるぞ!」

「うぜーんだよ。あ、それと銀髪、覚悟しとけよ。行きましょ、荻野先輩」

「あー・・・幸村、これ一つ忠告」

「・・・なんだい?」

「日和には手出ししない方がいい。あと早くその不細工な女とも縁を切った方がいいぜ」

じゃあな、と荻野先輩は言って私の手を引っ張ってあの場から離れてくれた。まったく、今日は災難だ。もうテニス部とか死ねば良いのに気持ち悪い。

「あ、荻野先輩。手、洗ってきます」

あいつらに触れたところが気持ち悪くて仕方がなかった。苦笑いをしながらも荻野先輩は、待ってるよ、と言ってその場で待っていてくれた。やっぱり荻野先輩はあんなクズ共よりかっこいい。
  

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