目には目を、歯には歯を | ナノ

 
目を覚ますと、見知らぬ天井だった。いや、違う。見たことある。ぼんやりと天井を眺めていたら、視界の横からこれまた見知った顔が現れた。

「やあ日和ちゃん!大丈夫かい?」

「・・・なんで新羅が居るんですか」

「あれ、覚えてないの?階段から落ちたんだって」

階段から落ちた。違う、落とされたのだ。クソ忌々しい笹部香織によって。上体を起こすと一瞬だけズキリと頭が痛んだが、多分大丈夫だろう。何たってあの折原兄妹の妹なんだから。

「もう平気そうだね。セルティも心配してたよ」

「そういえばセルティは?」

「仕事に行ってるよ。何か飲むかい?」

「んー・・・コーヒー。砂糖多めで」

はいはい、と適当な返事をして新羅は部屋から出ていった。頭に手をやれば綺麗に包帯が巻いてあるのがわかる。きっと荻野先輩が新羅に連絡してくれたからここに居るんだろう。下手に病院に搬送なんてされなくて良かった。それにしても笹部香織は何がしたいのだろうか。あ、もしかして死にたい願望があるとか?まあそんな度胸なさそうだけど。

「あー、うぜぇ」

「日和ちゃん声に出てるよ」

「ん、大丈夫。どうせ新羅だし」

「セルティも帰ってきてるんだけど」

湯気の立ったマグカップを片手に持った新羅の後ろからひょっこりと現れたのは、首から上がないセルティ。切断面からもやもやと出ている黒い何かが心配そうにゆらゆらと揺れる。笑みを作ってあげれば、セルティはどこから出したのか、小さめのパソコンで文字を打ち始めた。

『大丈夫か!?』

「うん、大丈夫だよー」

『荻野くんから電話があった時は心臓が止まるかと思ったんだぞ!』

「あはは、ごめんごめん。あれ、それじゃ運んでくれたのはセルティ?」

『そうだ』

「そっか。ありがと、セルティ」

『礼を言うくらいならもう二度と怪我をしてくれるな』

「うーん・・・それは無理かなぁ」

新羅から手渡してもらったコーヒーを飲みながらセルティと会話をする。隣に居るセルティが若干怒り気味だが、そんなところも可愛いと思う。

「これからどうするの?」

「やり返すよ?」

「・・・まあ、そうだろうと思ったけど。あまり無茶しないでよね」

『そうだ!日和はいっつも無理ばっかりするから心配する身にもなれ!』

心配する身にも、ねぇ・・・。私には限りなく遠い気がするんだけども。あ、でも私の好きな人たちに何かあったら心配するかなぁ。まあそんな事はどうでもいいか。

「帰るよ」

「もう?今日ぐらい泊まっていけば?」

「まさか。新羅とセルティの愛の巣で寝泊りなんか出来ないよ」

冗談で言えば新羅は照れるどころか気が利くじゃないか、なんて言いセルティに至っては恥ずかしすぎて言葉が出てこないらしい。可愛いなぁ、セルティ。これだからセルティ弄りは止められないんだよ。布団から出てみれば、制服じゃない服を着ていた。

「ああ、服なら捨てたよ。血がべっとりだったから」

「そっか。じゃあなんか服貸してよ」

「そう言うと思ってそこに置いてるよ」

新羅が指した方に目を向ければ綺麗に畳まれている洋服があった。バッと広げてみたら、まあ普通だろう。着ていた服をポイポイと投げ捨て、新しい服に着替える。途中、新羅に「恥じらいはないのかい」なんて言われたが「別に新羅とセルティだし」という一言によって黙った。

「じゃあ、お世話になりました。セルティ、ありがとね」

「僕にお礼は?!」

「新羅も。それじゃあ」

『気をつけて帰るんだぞ』

「うん。またねセルティ」

玄関のところで2人と別れ、池袋に寄って行こうかとも考えたけど、帽子で隠してる頭の包帯がバレたらきっとめんどくさくなるので止めた。

「あーあ、荻野先輩と静ちゃん元気かなー」

  

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