目には目を、歯には歯を | ナノ
2人がイスに座ったのを確認してから、ゆるりと笑みを作る。
「さてと、時間がないから本題に入るな」
時計を見ればあと10分で昼休みが終わってしまう時間で、遠回りに話をしてもこの2人には時間の無駄だろう。ああ、今の俺ってどんな顔してんだろ。ま、大体わかるけどな。
「そんな笑顔で、俺たちに何の話だい?」
「・・・ああ、やっぱり俺笑ってる?」
「・・・ふざけてるなら帰るが」
「まあそう言うなって」
クツクツと喉の奥で笑えば2人の眉間にしわが寄った。あーあ、折角の美形が残念だね。
「お前らに聞きたいことがあったんだよ」
「じゃあそれを早く言いなよ」
「そう急かすなって。んじゃあ、聞くけどさ」
そこで一旦言葉を途切れば、2人はゴクリと生唾を飲み込むのが目に入る。カチコチと時計の音だけが耳に入る。まるでわかってないような表情をしている2人だけど、恐らく気付いているんだろう。
「いつまで知らないフリをしてるつもりだ?」
意識してなかったせいか思っていたよりも冷たい声色で告げた言葉に、息を飲み込む音が聞こえた。それから数秒、思い当たる節があったのか柳の視線が俺から床へと移されていく。
「なあ柳。笹部香織は、何者なんだろうな」
疑問でもなく、問いかけでもなく。ただ思ったことを言葉に出しただけ。たったその一言に柳の肩は跳ねた。
「・・・何のことだ」
「調べたんだろ?笹部香織を。何が見つかった?」
「荻野、何を言ってるんだい?柳、もう行こう」
ガタリと音を立ててイスから立ち上がった幸村に対し、柳はまだその場から動けずに居た。それはそうだろう。
「隠そうとしてたわけだし、俺が知ってるのが不思議か?」
「っ、」
「柳?」
「唯一現状を理解してない幸村の為に、俺が教えてあげるよ」
「止めろ、荻野!」
イスを倒しながら立ち上がった柳と、未だ理解に苦しむ幸村に、俺から最大級のヒントをあげよう。その現状から抜け出すための、絶対を。
「笹部香織なんて奴、この世に存在しないんだよ」
柳も気付いたんだろ?と問えば、幸村の視線は俺から柳に注がれる。柳は幸村と目が合って、まるで肯定するように視線を逸らしたタイミングで、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。