目には目を、歯には歯を | ナノ
どうしてこんな事になったのか、考えれば考えるだけ泥沼に嵌るようで。まるでそれが望みだったかのように、彼女は笑う。
午前中の授業が終われば、テニス部レギュラーと香織は一緒に屋上でご飯を食べる。それが当たり前だった。
「幸村くーん」
「丸井。どうかしたのかい?」
「それがよぉ、昨日折原が屋上階段のとこで落ちたらしいじゃん?それで屋上に行けなくなってんだよぃ」
ああ、そういえばそうだった。全く、今日は学校に来てないらしいから香織も安心して過ごせると思ったのに。学校に居なくても俺たちに迷惑をかけるなんて。丸井が「どうする?」なんて風船ガムを膨らませながら言ってきたのを横目に、自分の弁当箱を手に取りドアの方へ歩く。
「今日は晴れてるし中庭にでも行こうか」
「おー、じゃあメールする」
慣れた手つきでメールを送った丸井と一緒にB組へ行けば、廊下のところに仁王と香織が居た。
「精市くんっ」
パッと顔を明るくして近寄ってきてくれる香織にドクンと心臓が跳ねた。可愛い可愛い、俺たちの香織。それから4人で中庭に向かえばすでに他のメンバーは揃っていたらしく、円になってお弁当を広げた。
お弁当を食べ終え、昼休みも残り半分となったとき。校内放送が流れた。
「テニス部レギュラーの皆さま、第二会議室までお越しください」
感じの良い声で呼ばれたのはここに居る俺たちで、きっと呼び出したのは荻野だろう。第二会議室もファンクラブの集まりに良く使われる場所だからね。俺が仕方なく立ち上がれば全員立ち上がる。
「さて、行こうか」
「香織も行っていいかなぁ?」
「良いに決まっとるじゃろ」
香織に構いながら第二会議室まで移動。会議室のドアは閉められていて、代表して俺が開ければ奥のイスに座っている荻野を見つけた。
「やあ、テニス部レギュラーさん。呼び出して悪かったね」
「そう思うなら自分から来ればいいだろう」
「はは、真田の言うとおりだな。まあそれは謝るよ。ところで、」
「あのっ、はじめまして!笹部香織っていいます!」
「なんで君が居るんだい?」
「えっ」
「俺はテニス部レギュラーを呼んだんだ。君は呼んでない」
きっぱりと言う荻野に対して、次第に涙を浮かべる香織。可愛い、なんて場違いにも思ってしまう辺り相当やばいなぁ、なんて。
「あー、じゃあ幸村だけで良いわ」
「なんだよぃ、それ」
「香織先輩を泣かせといてその態度っスか?」
「丸井、赤也。・・・みんなは教室に戻ってくれ。授業ももうすぐ始まるから」
どことなく危うい雰囲気を醸し出している荻野に背筋が粟立つ。渋っていたメンバーも部長命令だ、と言えば従うしかなく会議室から退出した。柳を除いて。
「俺も話を聞いても良いだろうか」
「別に構わないけど。ま、座れよ」
依然として偉そうな態度で話しかける荻野に若干の苛立ちと安心を覚えた。ああ何でこんなにも混乱しているんだ、俺は。