目には目を、歯には歯を | ナノ

 
池袋から新宿へと戻ってきた。途中美味しそうなクレープ屋があったから思わず買い食いをしたが、私のお腹はご飯がほしいと今にも鳴きだしそうだ。

「たっだいまー」

インターホンを連打しながらそう言えば、数秒してから中から不機嫌なオーラが近寄ってくる。

「煩いよ、日和」

「ただいま、兄ちゃん」

「ハァ、少しは反省したら?」

「大丈夫大丈夫。兄ちゃんにしかしないから」

「いや、ちゃんと話聞いてた?」

すでに諦めたような顔をしている兄ちゃんこと折原臨也。少し前までは池袋を拠点に情報屋をしていたけど、最近新宿に越してきた。とにかく“人”が大好きな、普通の人から見たら変人。それが私の兄である。

「ご飯食べたの?」

「これからだけど」

スタスタと我が物顔で歩く私の後ろには兄ちゃんもついてきて、キッチンに置いてあった鍋の蓋を開けると、中からカレーの良い匂いがしてくる。今日はカレーか。波江さんのカレーって美味しいから好き。早速手を洗ってから温めつつ、すでに炊けているご飯を皿によそっていく。

「いただきまーす」

「溢さないでよ」

「平気だって」

適当に兄ちゃんの話を流していれば、白い目で見られる。まあこれがいつもの光景なので然程気にする事ではないのだが。皿に盛られたカレーをペロリと完食して、さっさと皿を食器洗い機に突っ込んだ。

「あ、兄ちゃん!」

「なに?」

「荻野先輩がよろしくって」

「・・・何それ。ま、いつも日和が世話になってるんだろうね」

「それと、笹部香織のことわかった?」

ピタリと、兄ちゃんの纏う雰囲気が一瞬にして変わる。ああ、笹部香織にはやっぱり何かあったのか。だってこんなにも、兄ちゃんが楽しそうにしているのを見るのは滅多にないから。

「、面白かったよ。その笹部香織って奴は」

「ふーん。何がどう面白かったの?」

「“無い”んだよ」

「・・・無い?」

「そう。情報が一切“無い”のさ。これほど面白い事はないだろ?」

あの兄ちゃんでさえも一切の情報がつかめないなんて、ありえない。普通の人間、ましてやあんな馬鹿女の個人情報に何十にもセキュリティがあるわけないし。となると、

「この世界の人間じゃなかったり?」

「さあ?どうだろうね。ただ、そうだとしたらきっと学校の奴らはソイツに飲み込まれたんだろうね」

「・・・そうね、そう考えるのが一番手っ取り早い。ふふ、異世界の人間って死ぬのかな?」

「俺も気になるな」

ふふ、あはは、と部屋には楽しげな笑い声が響いた。ねえ、私に手を出した事、後悔しても遅いかもよ?
  

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