目には目を、歯には歯を | ナノ
今日は久しぶりに部活がなくなったから、岳人と一緒に池袋をぶらついていた。少し周りに気をとられていた隙に、岳人の姿が見えなくなった。
「・・・岳人?」
呼んでみるものの返ってくる声はなく、溜め息と共にポケットから携帯を取り出して岳人に電話をしようと歩きながらしていたら、不意に肩がぶつかった。今更携帯を弄りながら人にぶつかるなんて失態はしないはずだから、相手のほうがぶつかったんだろうと思い見てみると、同い年くらいの女子。ばっちりと目が合い、思わず眉間にしわが寄ったが、すぐに他人を寄せ付けないよう笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん、俺になんか用なん?」
「・・・はあ?」
笑顔を作りながら、なるべく相手を調子に乗らせないように。今までこんな事が何回かあったし、きっとコイツもそんな感じの奴なんだろうと思ってたら、目がはっきりと意味がわからない、と言っていた。
「せやから、俺に用?」
もう一度問いかければ、女は数度瞬きして、さもめんどくさそうに頭を掻いた。きっとこれも計算なんだろう。自分は俺に興味がありません、みたいな。どうせミーハーだろうに。
「あのさぁ、アンタからぶつかっといてその言い草なに?」
「なに言うてんねや。自分がぶつかって来たんやん」
「どうやったら止まってた人間が動いてる人間にぶつかれるんだよ。なに、お前の頭脳みそ入ってないわけ?」
「・・・え、」
「なによ。全く、今日は厄日じゃん。気分最悪」
どうやらコイツは本当に俺に興味がないらしい。いや、まだわからないが。それにしても、強烈な奴だ。初対面の相手にこんなにズバズバ物を言う奴は初めてだ。
「あーあ、慰謝料請求しよっかなー。肩痛いなー」
「・・・」
あれや、たまに見かける押し売りみたいな。でもコイツ、目が全く笑ってない。すぅっと、冷や汗が流れるような感覚がしたかと思った。どうしようか、と考え始めた時だった。
「日和?」
「あっ、静ちゃん!」
第三者の声が入ってきて、その方を見て思わず逃げ出したくなった。だって、池袋に頻繁に行く奴らなら誰もが知っている、サングラスにバーテン服の、池袋で絶対に敵に回してはいけない人物。そう、確か平和島静雄。なんでこんな奴がここに居るのかというよりも、ソイツと親しげに話している目の前の女が、急に怖くなった。
「(もしかして、俺ってかなりヤバイことしたんとちゃう・・・?)」
「それより日和、何かあったのか?」
「え、あ、ちゃう「そうなんだよー!ぶつかってきたのに謝りもしないし私の方がぶつかったなんて言うんだよ?馬鹿だよね、私が人にぶつかるわけないのに」・・・」
仕舞いや。俺の人生ここで幕が閉じるんや。チラリと視線が合った平和島静雄は、ふーん、とだけ呟いて背を向けた。それについていくように、女も俺のことなんか忘れたかのように平和島静雄の左腕に絡みついて歩いて行った。
「――侑士?」
「!え、あ・・・岳人、か」
「探したんだぞ!」
「ああ、すまんなぁ」
どれくらい時間が経ったのか、思えば数分だったのかも知れないが、俺には途方もない時間のように感じた。
「(どうか、二度と会いませんように)」