秘密の森にて君と | ナノ
跡部と四ノ宮ちゃんが幼馴染。まあ別に俺にも幼馴染が居るから変だとは思わないけど、意外だとは思った。だってあの跡部が、自分以外を気にかけるなんて思わないし。
「それより、椿」
「なんですか?」
「ジローはもう“見た”のか?」
「・・・」
「?跡部、何のことー?」
「ジローはちょっと黙ってろ。アーン?」
微妙な沈黙が流れる。それにしても、四ノ宮ちゃんとは始めて会うわけじゃないのに“見た”ってどういうことだろう。だって、俺は四ノ宮ちゃんのことを見て話してるし、四ノ宮ちゃんも俺を見て話してくれてるのに。そして沈黙を破ったのは四ノ宮ちゃんだった。
「見て、ないの」
「・・・四ノ宮ちゃん?」
「・・・ごめんなさい、」
ぽつりと呟いた四ノ宮ちゃんの声は消えてしまいそうなほど小さくて、次いで跡部が溜め息を吐いた。俺だけが状況をあまりよく理解してなくて、俯いてしまった四ノ宮ちゃんから視線を外して跡部を見れば、真剣な目をして俺を見てきた。
「ジロー、椿は昔から目が見えないんだ」
「・・・え?」
「だから、視力がないんだ」
「そう、なの?」
「・・・ごめんね、」
「椿は見えないから、触れて、初めて見えるんだ。ジロー、椿のことが好きか?」
「もちろんだC」
嫌いな人のところに来たりしないし、と付け足せば跡部にお前らしいなと返される。四ノ宮ちゃんは、ゆっくりと顔を上げてくれた。
「・・・ジローくん、」
「なにー?」
「顔を、触ってもいいかな?」
「うん、良いよー」
四ノ宮ちゃんの両手を取れば、ビクッと肩が揺れたが気にせず自分の顔に手を導く。それから割れ物を扱うかのように優しく、四ノ宮ちゃんの手が俺の輪郭をなぞる。ゆっくりと、確かめるように。
「・・・ジローくんは、優しいんだね」
「・・・そんな事ないC」
「ううん、わかるよ。あ、髪も触れて良い?」
「どうぞー」
「あ、ふわふわ」
「へへへ、俺の自慢だC」
「羨ましいです」
ふんわりと四ノ宮ちゃんは笑った。それからまた少し話して、帰路についた。