秘密の森にて君と | ナノ
いつもの様に練習が終わって自主練をしていた。長太郎は用事があるって言って帰ったから、今日は壁打ち。一人でパコンパコンと壁とラリーを続けていたら、視界の端で赤がチラついた。
「なぁ、最近テンション高ぇと思わねぇ?ジローの奴」
「あ?あー、そういえばそうだな」
「クソクソ、気にならないのかよ!」
「・・・まあ、気になるっちゃ気になるが」
「だろ?流石宍戸。流石俺たちの幼馴染。よし、じゃあ聞こうぜ」
「はあ?」
「だから、ジローに聞きに行こうぜ」
クイッとあごでジローを指す岳人はさながらどこかの不良みたいだ。因みに俺と岳人とジローは幼稚舎からの付き合いで、家もそこそこ近い、所謂幼馴染ってやつだ。今まで隠し事なんて出来たためしがない。そんな中でジローが最近、異常なくらいテンションが高い。まあいつも寝てるジローがちゃんと起きて部活にも遅れずに来てるから誰もが気づいてるんだが。
「おい、宍戸?」
「あぁ、わかった」
話しながら壁打ちをしていたのを止めて、シャツの袖で汗を拭う。もう少し練習をしたかったが、多分今日は無理だろう。ラケットとボールを手に持って先に進んでいた岳人の後を追いジローの元へと向かう。
「おいジロー!」
「んあ?」
「最近何かあっただろ!」
結構思うことだが、岳人は馬鹿だと思う。いや、良く言えば直球なんだが、とりあえず遠まわしに聞いたりする事が出来ない。ジローに至っては何も考えてなさそうに見えて結構考えてる奴で、答えたくないことはのらりくらりと避ける。世の中の渡り方が上手い。
「んー、別に何も無いC」
「クソクソ、そんなわけねぇだろ!言えよ!」
「おい岳人、ジローにだって言いたくないことぐらいあるだろ」
「なんだよ宍戸。俺たちの間で隠し事はなしだろ」
「秘密ぐらい俺にだってあるし」
「はぁ!?なんだよそれ!」
ギャアギャアと一人騒ぐ岳人を尻目にジローを見れば、目が合う。
「宍戸も秘密があるなんて以外だC」
「クソクソ!なんだよもう!俺も何か秘密作ってくる!」
へらりとジローが笑ったと思えば、岳人が叫んでどこかに走り去っていく。なんていうか、相変わらずだ。
「宍戸の秘密ってなにー?」
「言わねぇから秘密なんじゃねーか」
「まあまあ、別にいいじゃん。幼馴染でしょ」
「・・・彼女が出来た」
「・・・まじ?」
「・・・おう」
「だれだれ?」
「これ以上は言わねぇよ。彼女との約束だし」
「ふーん。ま、いいけど。俺はね、新しい友達が出来たんだC。あ、もうこんな時間じゃん!俺見たいテレビあるから」
「おう。気をつけて帰れよ」
「宍戸もねー」
手をブンブンと振って、ジローは帰っていった。そうか、ジローには新しい友達が出来たのか。明日ぐらいに岳人に教えといてやるかな。面倒だけど俺の秘密も。結局、俺たちの間に隠し事なんて出来ないんだ。