秘密の森にて君と | ナノ
どうすればいいのかわからずぼんやりと突っ立っていたら、彼女はにっこりと微笑んだ。
「良ければ、私のお話し相手になっていただけませんか?」
その声に導かれるように彼女の座っている場所まで行けば、彼女とは反対側のもう一つのイスの前に紅茶が置かれている。他に座れるようなイスはなかったので、座って良いのか悩んでいたら小さくも大きくもない声で「どうぞ」と言われてそこに腰掛けた。
「・・・、なんでこんな所に居るの?」
「少々事情がありまして」
「ふーん・・・」
「そこの紅茶、良ければどうぞお飲みになってくださいな」
「良いの?誰かのだったんじゃないの?」
「紅茶くらいで怒るような人じゃありませんから、大丈夫ですよ」
クスクスと右手を口元に当てて上品に笑いながら彼女は答える。だから俺もティーカップを持って紅茶を口の中へ運ぶ。ほんのりと甘さが口の中で広がり、ゆっくりと飲み下す。熱くもなく冷たくもなく、丁度いい。もう一口飲もうとしたら、彼女が話しかけてくる。
「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、俺はジロー。芥川慈郎って言うんだC!」
「芥川くん、ですね」
「んー・・・できればジローって呼んでほしいな。みんなもジローって呼ぶから」
「わかりました、ジローくん」
「君は?」
「私は四ノ宮椿と申します」
「四ノ宮ちゃん?」
「はい、そうですよ」
彼女の名前は四ノ宮椿ちゃん。聞いたことがないけど、2年生か1年生の子だろうか。優雅に紅茶を飲む四ノ宮ちゃんは本当に美しくて、まるで童話に出てくるお姫様みたい。なんでここに居るのか理由は聞けなかったけど、またいつか話してくれたら嬉しいな。
「ずっとここに居るの?」
「えぇ、居ますよ」
「また来てE?」
「それは嬉しいですね。楽しみにしています」
「じゃあまた明日も来るC!」
少し遠くの方から授業が始まる鐘が鳴り響いてくる。ガタリと席を立ってから、またねと手を振れば、四ノ宮ちゃんも微笑んで手を振り替えしてくれた。