秘密の森にて君と | ナノ


幼稚舎の頃から氷帝に通って、小さな頃は好奇心から探検なんかを宍戸達とした。結果は当たり前だけど迷子になって、教師達が必死に探し回ってくれた。親にも心配をかけたし、こっぴどく怒られた。それでも好奇心が押さえられなくて迷子になることが多々あった。だけど、もうこの学園内には俺の知らない場所は無いと思っていた。そう、“思っていた”のだ。

「こんな手入れされてない場所はじめて見たC」

眼前に広がるのは木々が鬱蒼と生い茂る小さな森。他の場所の木々は綺麗に手入れがしてあるのに対し、ここだけは不自然と言えるくらいに手入れがされていない。もしかしたら何かあるかも、なんて子供のような好奇心に刈られ彼・・・芥川慈郎はその小さな森の中へ足を踏み入れた。人が通らないのか道という道は存在しない場所を、草を踏みしめて歩く。近くで見つけた少し太めの木の棒を手に、慈郎は突き進む。

一体どれ程進んだのか、今までは日の光すらもあまり届かなかったのに、いきなり目の前が明るくなる。思わず一旦目を閉じて、再度ゆっくりと目を開けると、

「うっわぁ、すっげぇー!」

唐突に開けた場所に出れば、そこは辺り一面に薔薇が咲き誇っている。ガサガサと最後の茂みをかき分けてその場所に出て、キョロキョロと辺りを見回して、気が付いた。自分が立っている場所から少し離れた場所にあるテーブルとイスに腰掛けている人の姿。

「・・・ここに人が来るなんて珍しいですね」

綺麗で澄んだソプラノの声が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。彼女は左手にソーサーを取り上品に紅茶を飲む。まるで、別世界に飛ばされたような感覚に陥った。


  

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