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お弁当事件@
「あら?」
母の困った声を聞いたのか、リビングからたたたっとちひろが走ってくる。
「おかーさん、どうしたの?」
「雅治ったらお弁当忘れたみたいなのよねぇ」
「・・・ちひろがとどける!」
「え?」
「ちひろがまーくんにおべんとうもってく!」
「そうねぇ・・・あ、拓海出かけるの?」
「颯太んとこ行ってくる」
「丁度良かったわ、ちひろと一緒に雅治にお弁当届けてくれないかしら?立海まででいいから」
にこりと笑う母と楽しみで落ち着きがないちひろを見て、拓海は溜め息をついた。しかもいつの間に準備されたのか、ちひろのお弁当まであった。
「わかったよ。立海までな」
「校門のところまでで良いわよ。それからは一人でも大丈夫でしょう」
「じゃあ、ちひろ行くぞ。行ってきます」
「いってきます!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
雅治とちひろの弁当はちひろのリュックの中に入っている。ちひろの手を引きながら立海を目指す。因みに颯太こと、丸井 颯太の家は立海を通り過ぎないといけない。ちひろはキョロキョロと周りを見ながら歩いていて、手を離したらどこかに走って行きそうな気がした。
気が付けばもう立海の校門まで来ていた。
「ちひろ、女の人の声がする方に行くんだぞ?」
「ん、わかった」
「分からなかったら近くの人に聞くこと」
「ん!」
「じゃあ、気をつけていけ。あんま走るなよ!」
ちひろは立海のテニスコートへ、拓海は颯太の家へとそれぞれの道を歩いた。
「(おんなの、こえ・・・)」
少し遠いのか聞き取りにくいが、ちひろは声のする方へ走り出した。