再海 | ナノ
鼻を突く医薬品のにおいで目が覚めた。真っ白な天井、ではなく木製の天井が目に入った。昨夜寝る場所がないと白ひげさんに言ったら笑いながら医務室を使えと言われた。
05:雑用任命と大食い野郎
海賊船に乗って2日目。もしかしたら夢だったんじゃないかという私の考えはこの部屋の内装からして砕け散った。未だ働かない頭を押さえながら部屋を出ようと取っ手に手をかけた時だった。
――ガンッ
内側に勢いをつけて開いたドアに、私は成す術も無くおでこを強打した。
「・・・〜っ!」
「わ、悪い!大丈夫か?!」
おでこを押さえながら視線を上げれば、変な形のひげを違和感なく生やしてるダンディなおじ様が居た。確か・・・どっかの隊長だったはず。なんでこんな所に居るんだと困惑しているのがわかったのか、苦笑しながら私の頭を撫でた。
「朝飯の時間だ」
「あ、成る程。わざわざありがとうございます。えーっと・・・、」
「ビスタだ。五番隊隊長のビスタ」
「ビスタさん・・・。ごめんなさい、まだ覚えてなくて」
「気にする事はない。人の多さは重々承知しているさ」
ニッと笑ってくれたビスタさんに私も笑い返して、二人で食堂に行く事になった。食堂に行くという事で思い出したが、私はこの船の部屋の位置を知らない。ビスタさんはそのことを考えて私を迎えに来てくれたのかなと思い、心の中でお礼を述べた。医務室から食堂はそんなに遠くなくて、案外早く着いた。ドアを開ければ中は大勢の船員達が思い思いの食べ物を手に取り食事をしていた。どうしようかと思っていたら、後ろからドンッと押され前のめりになりながら食堂へ入った。
「邪魔だよい」
「・・・すみません」
「お前今日から雑用やれよい。女なんてそれくらいしかできないだろ」
「・・・わかりました」
押した相手はマルコさんで、もの凄く不機嫌だってことがわかった。と言うよりも私が本当に気に入らないらしい。困ったなと思いつつとりあえず朝食を食べないと頭も働かない。周りを見ても開いてる席なんてなくて、どうしようかと思った時だった。
「サラ!こっち来いよ!」
「エースさん!」
奥の方から声がして、見てみればお皿に大量の料理を乗せたエースさんがカウンターに座っていた。近寄ってみればそこに居たのはエースさんの他にマルコさんにビスタさん、サッチさんや隊長さん達がちらほら。こんなメンバーで食事なんて取って良いのかと思ったが折角エースさんが呼んでくれたんだしお言葉に甘える事にして、エースさんの隣に腰掛けた。そこしか空いてなかったし。
「はい、お待ち!」
「サッチさん、ありがとうございます!」
「おう、たくさん食べろよ」
「はい」
サッチさんが出してくれたトレーの上の朝食は何ともバランスが良さそうだった。隣のエースさんを見れば先程まで山のようにあった料理がもうなくなりそうで、早いなと見ながら食べようと思ったら、エースさんはいきなりお皿の上に顔面をダイブさせた。
「え、エースさん!?」
ゆさゆさと揺らしても動く気配がなくて、もしかして死んだのかと思ったが周りの人たちは気にせずに食事を続けている。きっと私の頭の上にははてなマークがたくさん浮かんでると思う。突然、エースさんはガバッと起き上がった。
「・・・寝てた」
「・・・はぁ?」
「どうしたァ?食わねェのか?」
「・・・っこの大食い野郎!」
「痛っ・・・なにすんだよ、サラ!」
起き上がったと思ったらさっきまで食べていた途中のものをまた食べ始め、なんとなくイラついたので軽く殴った。エースさんはいきなり殴られた意味がわからないのか、頭にはてなマークを浮かべながら食事を続けていた。
食事も終わり、何か仕事を探さなければならない。だって雑用だもの。
「サッチさん、お皿洗い手伝います」
「お?マジで?助かるなァ!」
「雑用ですから」
一度食堂を出たが良く知りもしない船内を歩き回るより、この食堂で手伝いを探そうというのが私の出した結論だった。それにあの人の多さじゃお皿洗いとかも大変そうだなということで、私はお皿洗いを買って出た。